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「#幼馴染」のBL小説を読む
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ピースのありか

 復讐を、悪だとは思わない。
 これはもしもの話だが、わたしが元の世界に帰ることができたとする。そうしたらわたしは、そのときはきっと、松雪の家には二度と戻らない。弟は今でも好きだが、両親のことはそうでもなかったのだと気付いてしまったから。むしろ恨んでいる節すらあって、だからわたしはあの家の門はくぐらない。たとえどんなに「帰っておいで」と言われたのだとしてもだ。ザマァミロと、笑うのだろう。叶うことはないイフではあるものの、それがわたしの復讐で、そしてわたしはこれを悪いことだとは認めない。認めさせないのだ。
 だから。だからわたしは、渡さんの声の端からこぼれていた報復の意思を、否定はしない。身内を殺されてしまったから、かたきを討つ。協力しますとまではいかないが、それこそ彼女がわたしに言ってくれたように、好きにしたらいい。何よりも、死んでしまった人はわたしのせいで命を落とした。
 でも。――ちょっと何か、“運び過ぎて”いない? 一連の出来事の渦中にありながら、よそごとのように他人を俯瞰していたわたしが言う。
 竹中さんは、あの人を手にかけた犯人の目的は渡さんなのだと言っていた。
 渡さんはそれを聞いて、「精神的に追いつめることですかね」とちゃかしていた。
 わたしは大谷さんの隣で婆沙羅に意識を傾けながら、あのときに交わされた話も聞いていた。それがずっと、引っかかってやまない。
 ふと気になってしまったから、わたしはあのうつくしい城に引きこもることをやめて外に出たのだ。

 上田城に落ち着くことを選んだのは、なんだかんだ、わたしに最初に優しくしてくれたのが真田さんであったからだ。渡さんのいる小田原に行くことも検討したが、でもあの人は仕事で忙しいだろうから、だったらわたしはわたしで独立の努力をしようと至った。……本音を言うと、彼女のそばには居づらかったのもある。
 佐助さんはあまりいい顔をしなかったが、真田さんはわたしを見て安心したように笑っていた。その雰囲気からは、前に感じていた怯んでしまうような熱はすっかり引いていて、わたしもほっと胸を撫で下ろす。
 無事でよかった。人よく呟いた城主さまに、勝手にいなくなってごめんなさいと頭を下げて、わたしはここにいる。

 ぐぅるると唸るウォーグルという魔獣は、わたしの心配をしてくれているらしい。だいじょうぶ。わたしは固唾を飲んで必死に踏ん張っている。……が、ぞくぞくと四肢を這ってくる震えにどうにも耐え切れず、ついには彼の背中をぱしぱしと叩いた。
 ウォーグルのはちさんが降下する。背中からよろよろと降りると、愛しい地面を下に足の裏が安堵した。膝がガクガクだ。はちさんに乗って空を飛ぶ練習をしていたのだが、上手くいかない。高所恐怖症、とまでは行かずとも……なんだろう、苦手だ。思えば飛行機に乗るのも、わたしはあまり好きじゃない。遊園地の空中ブランコは、好きだったのにな。
 アンノーンのルーペの瞬間移動は、不確定要素が多いらしい。「謎が多い魔獣なんだよね」と渡さんは言っていた。わたしは彼女以上に魔獣に無知なのだから、ルーペの不思議な力に頼り切るわけにもいかない。
 ルーペが近寄ってくる。血の気が引いていたかな。心配をさせてしまったみたいだ。大丈夫だよ、と声をかけて木陰に座り込む。水を飲むと、少しは落ち着いた気がする。
 隣に気配を感じる。下だ。見ると、影に真っ赤な目がふたつついている。

「えいさん」

 名前を呼ぶと、それは目を細めてけけけと笑った。撫でても分かるのは、雑草の感触だけだ。

「……難しいね」

 空を飛ぶことも、何もかも。
 ぼんやりと天空を仰ぐ。今日はくもりだ。雨は降らないと思うが……上は随分と風が強いみたい。雲が、いつもよりも早く遠くへ流れていく。

 わたしは、いざというときのためにわたしにできるだろうことの、準備をしている。真田さんや佐助さんを巻き込むことはできない。わたしが見ているのは渡さんで、でもあの人本人に声をかけるには決定打が不足している。わたしは罪滅ぼしがしたいのだろうか。……否定はしない。

 余裕が生まれたことで、大事なことを思い出したのだ。わたしはこれを追っている。まだ、誰にも言っていない。それに、全部は巻き直せていない。まるでわざと消されたみたいに、再生できない記憶がある。負けるものかと、何度も過去の海にダイブする。あるはずだ。きっとある。

 この世界で、最初にわたしに優しくしてくれたのは真田さんだ。でも、

――「はじめまして。僕はチヅキ。君の名前は?」

 最初に出会い、声を交わしたのは――金髪に緑色の眼をした、小さな男の子だった。





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