夢のような今
戦国乱世の歩き方なんて知るもんかーい! こちとら平成云年生まれの高校三年生じゃ!
私は自棄になっている。冷静に考えたうえで自暴自棄に陥っている。別に暴走しているわけではない。脳内会議を重ねて満場一致で決定したんです。そうだ、当たって砕けようと。
だって、そうでもしなければ途方もない不安に潰されてしまう。つい先日まで平和な国でだらだら生きていた女が、ここで正気を保つための自衛手段だ。私が私でいるためには、一度決めたらもう考えることをやめるしかない
あとは時間が解決してくれる。感情は摩耗する物だから、未来の私はこの私を振り返ればそんなこともあったなぁとぼんやり笑っているのだろう。
この世界では、ポケモントレーナーは「魔獣使い」と呼ばれるようだ。魔獣のことで悩んでいる人の話を聞いて分かったことだ。その人は夜な夜な枕元に現れるらしいムンナに怯えていた。
それはたぶん、あなたの夢を食べに来ているだけですね。害はないことを教えると、ほっと胸を撫で下ろされる。
ジラーチのお墨もついている。この推測で間違ってはいないだろう。
「魔獣使い様、ありがとうございました」
うう、むずむずする。でも、悪い気分じゃない。
これが、私が「魔獣使い」として解決した初めての事案だ。
武将キャラに謁見する気概なんてないので、まずは小さなことから解決に走っていく。ある日突然現れた魔獣を怖がる人たちに、ポケモンのことを教えていく。恐ろしいものではないんですよ、ホラうちのミロカロスを見てください。きれいでしょう。いまだにデレてはくれないんですよこの子ってばオホホ。私の悩みなんです。でも、私を守ってくれるんです。人間のこと、あまり好きじゃあないみたいなのに。まだ仲良くないけど、本当に、可愛いんです。
「「トレミー」にしよう」
タマゴを抱っこしながら天体観測をしていたら思いついた。ジラーチとミロカロスの視線が刺さる。
「ミロさんの名前」
先の台詞の意味を注釈すると、指されたミロカロスが怪訝そうに首を傾げた。こいつ、何をしても美人だな。どうして私の手持ちなんだろう。トリップしたときに補正で既に持っていたからです。申し訳ないよね。最初のポケモンがミロカロスって仰天する。本人もたいそうご立腹であったらしいことは確認済みだ。初見で威嚇されたときは心が軋んだ。
トレミーの四八星座、というものがある。ひらめいたニックネームはそれが由来だ。ミロカロスにつけても見劣りしない、整った文字列だと思う。
ジラーチは私の保護者であって、手持ちではない。でもミロカロスは違う。だから名前をつけてみたくて、ずっと良さそうな物を探していた。
「気に入らないなら考え直すよ。首を横に振ってね」
「…………」
ミロカロスは言った通りのアクションはせず、興味を失ったように私から視線をそむけてあくびをした。とぐろを巻いて尻尾の上に頭を乗せる。お? オッケー? 許された?
「と、トレミー?」
おそるおそる手を伸ばすとぺしりとはたかれた。うああんさわらせてよぉ。
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