自己満足はおしまい
どこに行ってしまったのかは、分からない。
松雪さんは、少し目を離しているあいだにいつのまにかいなくなってしまっていた。
けれども目撃していた人がいた。証言によると、彼女は、どうやらアンノーンの力を使って文字通り消えてしまったらしい。不確定要素、ここにフラグ回収である。猿飛さんにでっちあげた台本が、まさか返ってくるとは思わなかった。
自分に苛立つ。気を配れなかった、私が悪い。今回のことに気を落としているのは私はもちろんだが――少し気を割けば、思い至れたはずだ。
松雪さんが、何も感じなかったわけがないだろう。彼女は二一世紀から来たばかりで、私のように知識があるでもない至極プレーンな一般人だ。ポケモンのことなんかほとんど無知であるようだった。忍びから拷問を受けると当然に落ち込み、心を閉ざしてしまうような女の子だ。
言っては何だが暗い性格であるあの子は――あの子も、思っていたに違いない。「私のせいだ」と。
思いつめさせてしまった。ああもう、これでは堂々巡りだ。
何よりもまずいのは、彼女の婆沙羅だ。周囲へ影響が表れては、上田にも勘付かれる可能性が濃い。
大谷さんが言うには、松雪さんは必死に制御をしようと尽力していた様子だったが、あれから二週間と少しが経過した今でもあまり進展はみられなかったそうだ。基礎や意思以前に、もっと根本的なところからの矯正がいるかもしれないそうな。
なんとしてでも、連れ戻さなければならない。
でも、どこから? 彼女が行きそうなところなんて、見当もつかない。まさか、上田じゃああるまいな。
竹中さんはすぐに動いてくれた。この人、味方になると本当に頼りになる。
捜索隊を組み、ひとまずは大阪国内をしらみつぶしに探す。海野部と私には、魔獣を用いて遠方――国境付近に目を通せとのことだった。それでだめなら、豊臣軍にできることはなくなる。……私がなんとかするしかない。
気を揉みながら出発しようとした折、
「ご報告です」
ふいに降りてきた、豊臣軍の忍びがもたらしたのは吉報だった。
「ここより北東、山間部の廃村に――謎の「結晶塔」が突如現れたとのこと」
竹中さんの声がかかるよりも先に、私はゴルーグのゴレムスを表に出して乗り込んでいた。
それ十中八九、松雪さんのアンノーンの仕業ですわ。映画で見ました。
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