海上の嫁に惚れ直す
陽がまぶしい。おかげでラフレシアことアーノルド、ノルさんの調子も絶好調だ。いつでも最高のソラビが撃てる。
ざっぱぁんと波が跳ねるのと同時に足場もたわんだ。おうっふ。ノルさんを片手で抱きしめて手すりにしがみつく。「らふぅ」と苦しそうな声が聴こえた。ごめん、ちょっときつかったね。内臓への揺さぶりを膝をついて耐える。ジラーチが小さな手で背中をさすってくれる。ありがとう。
現在地は瀬戸内海。私は一時同盟を組んでいる二国の依頼を受け、海で荒れている魔獣を落ち着けるためにこうして海上に赴いている。
にしても船酔いがひどい。慣れてきたからさっきよりはマシなんだけれども。陸が恋しい。帰りたい。帰って家でごろごろしたい。
そも五分ほど前までは、海は凪いでいた。
スコールなんてよくあることさ? それはそうなんだけど、生憎空は真っ青だ。風も大して出ていない。長宗我部さんがいかりを下ろした途端のこれなのだ。少し遠くに留まっている毛利軍の一隻も、同じように揺れている。考えられることは自然とひとつ――海中から、船を刺激している者がいる。たぶん、人間をこの海域から追い出すのが目的だ。あくまで沈めてはこない辺りは、平和寄りではあると評価しよう。
ここらは地元の漁師も使う海域であるから、魔獣だけに引き渡すわけにはいかない。下手に武器を向けるよりも魔獣使いを招いた方がいいんじゃないか、という方針の下で私が呼び出された。
「おい、どうだ。なんとかなりそうか」
隣に立った長宗我部さんが、下を伺った。うっそだろこの人、この中でピンピンしていらっしゃる。
海面からは、執拗な嫌がらせの犯人である魔獣の背がしばしば垣間見える。ホエルコ。ホエルコ。ホエルコ。ホエルコばっか――待って、今オクタン見つけた。
一見は温厚そうなポケモンばかりだ。船の直下には、もしかしたらニョロボンなどもいるかもしれない。格闘タイプで力持ちだし。うーん。
「ゴレムース! ノルさんお願ーい!」
滞空してもらっているゴルーグのゴレムスにノルさんを預ける。用心はしすぎても損はしない。最終兵器ソラビはいつでも撃ってもらえるようにしておこう。
「で、どうすんだ」
「話を聞いてもらえるならそれが一番ですね。でもこの状態じゃ、甲板から声かけてもどうかなって感じなので……えあ」
『あっ』
「うおっばっ」
あっこの人いまバカって言おうとしたな。したな? 分かるよ?
私はといえば、一際大きい跳ねによってうっかり手を滑らせ、甲板から落下する最中なのであった。長宗我部さんが慌てて腕を伸ばしてくれるが、ぱしっと手がぶつかっただけに終わる。惜しい。これは頭から行きますね。ジラーチをできるだけ空に持ち上げて、ぎゅっと目を閉じる。
同時に持っていたモンスターボールが、軽快な音をして開いた。
「……ふぉん」
「ドジっつったな今。ありがとう。覚えてろよ」
受け止めてくれたミロカロスのトレミーはふんと鼻を慣らした。そういうリアクションをしていいのは顔面偏差値の高い男だけだよね。よって許す。
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