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選択失敗した

 なんだろうこの状況。
 バディポリスが感知した新たなモンスターの反応に、真新しいコアデッキケース片手に薙白家にやって来た龍炎寺タスクはらしくなく現状把握に必死だった。
 モンスターを呼び出したらしい少女は目も当てられないほどに泣きじゃくっていて、そしてその兄であろう人物は妹を泣きやませるのに必死になっていて、ポリスが探知したブラックドレイクはそんな惨事に興味はなさそうに得物の調子を見ている。
 最年少バディポリスの彼はさまざまなバディファイターとモンスターたちの邂逅を見てきたが、このような情景を目にすることは中々ない。新鮮な感覚だった。

「……あの、ちょっといいかな?」

 庭を区切る、腰までの高さの茂み越しに声をかける。視線をくれたのはブラックドレイクだけ。

「なんだ人間」
「ええと、さっきこの世界にやってきたのは、キミで合っているかな?」
「ふん、確かにそうだが、それがどうした」

 これまた会話のしづらいバディモンスターである。

「コアデッキケースを届けに来たんだ」

 するとブラックドレイクの目の色が変わった。どうやらコアデッキケースがなんたるかを知っているようだ。
 「娘! コアデッキケースを受け取れ!」ブラックドレイクは声を荒げて兄妹の意識をタスクに向けた。しかしそれは新たな混乱の種となる。

「えぇえええ龍炎寺タスク!? な、なんで!?」
「バディポリスとして、コアデッキケースを、ブラックドレイクに選ばれたファイターに渡しに来たんだ。ブラックドレイクのバディは、キミかな」
「……ふぁい、たー?」
「さっさとそれを手にしろ。小僧、貴様バディファイターだな? 俺と戦え!」
「申し訳ないけれど、それを決めるのはキミのバディだ」
「……、あの、えっと……薙白カナハ、です。名前」
「あ、おれはヒビネ! カナハはおれの妹だ」
「名乗りなどあとでできよう! 娘、早くしろ!」
「ひっ、……、…………龍炎寺、さん?」
「なにかな」
「わ、わたし、バディファイト、したことない、です」
「なんだと」

 声を上げたのはタスクではなくブラックドレイクである。彼は大きく舌打ちをして、「ぬかったか……!」と渋面した。
 対してタスクは人のいい笑みを浮かべた。それでもいいさ、とカナハの手をすくいあげてコアデッキケースを渡そうとする。するとヒッとカナハは恐慌して手を引っ込めた。さすがにタスクの動きが笑みと共にフリーズする。

「あっ、ご、ごめんなさ……!」
「貴様何をしている……!!」
「あ、あー、すみません龍炎寺さん、妹異性慣れしてなくて。最悪就職までには直せって親には言われてるんですけど」
「それは、…………頑張ってね」
「は、はい」

 改めて、コアガデッキケースを今度は片手で面と向かって手渡す。控えめな仕草で受け取ったそれを、カナハはまじまじと見つめていたが、横からブラックドレイクが覗き込んでくると大げさに肩をすくめていた。

「バディファイトをしたことがないのなら、今からやってみればいい。ブラックドレイクはキミの心強いバディになってくれるだろう。上手くいかないときは、周りの人に頼ればいいよ。ボクも応援しているから。そうしてキミが望んだときが来たのなら、ブラックドレイクの願いにも応えよう」

 それじゃあね、と去っていったタスクを見送ることしばし。
 「空色髪の小僧……覚えたぞ。この屈辱はいずれ晴らす」とひとり静かに憤るブラックドレイクかたわらに、カナハは緊張が途切れて今度は静かにすすり泣いていた。

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