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二年後の約束

 ヨスガシティのカフェで、シンオウチャンピオンのシロナさんと待ち合わせをした。個室のある珍しい雰囲気のお店だから、チャンピオンがいる、と騒がれることもない。
 彼女とは、たまに連絡を取り合っている。シンオウ神話のことを調べているときに縁ができた。シロナさんは考古学者で、その手のことに造詣が深い。今ではこうやって機会が合えば顔を合わせて、互いの情報を交換する仲だ。

「シキちゃん、イッシュに行っていたんですって?」
「はい。向こうの伝ポケに興味があって」

 真実と理想を司る、竜の伝説。純粋に惹かれるものがあってはるばる海を渡り訪れたものの、少し間が悪かった。というのも、プラズマ団という組織がいたからだ。ポケモンの解放を主張する、新手の宗教団体みたいな連中だ。イッシュは楽しかったが、あいつらにはしばしば手間を焼いた。絡まれたからには、じっくり強火で焼いてやるしかあるめぇ。あいつらのやり方はもはや解放云々関係なく、ただの脅迫で強奪だった。メーワクだった。
 イッシュリーグを潰そうとした、プラズマ団の城。いろいろあって彼らの目論見は潰れたらしく、プラズマ団は解散したのだと噂で聞いた。あれの首謀者はゲーチスという男で、現在は世界全国に指名手配中。足取りはなおも掴めていないらしい。少し前にはニュースをひどく騒がせていたし、新聞や雑誌の一面だって飾っていた。

「言ってくれればよかったのに」

 コーヒーに砂糖を入れながら、シロナさんはくちびるを尖らせた。あたしが頼んだのはミルクティーだ。それから、二人してミルフィーユ。

「あたしもイッシュにいたのよ」
「えっ、マジっすか。プラズマ団、大丈夫でした?」
「ああそれ。あたしが着いた頃には、解散していたわね」
「あー、ならすれ違ってますね。あたしその頃にはイッシュ発ってたんで」
「あら、そうなの。リュウラセンの塔は行った?」
「行きました。リゾートデザートも。シロナさんは?」
「んふふ、行って来たわよ。……海底遺跡は?」
「行きました」
「あたしも」

 いえーい。片手でハイタッチを交わす。
 シロナさんは生クリームをふわふわに重ねたミルフィーユをつつきながら、そういえば、と話題を改める。

「イッシュ繋がりなのだけれど、PWTって知ってる?」

 ぴーだぶりゅーてぃー? ……なんだそれ。

「ポケモン・ワールド・トーナメント」

 あたしの顔から疑問を読み取ったのか、話を振ってきた本人は注釈を入れてくれる。

「大仰そうなネーミングですね。イッシュリーグの祭典か何かですか?」
「一大イベントよ。全国から実力者を集わせて、トーナメントを開催するんですって。あたし、それに招待されちゃった」

 へえ、と相槌を打つ。知らなかったな。あたしはイッシュの大都市であるヒウンやライモンにも足を運んだけど、そういった広告は出ていなかった気がする。ヒウンといえばヒウンアイス、美味しかったなぁ。

「いつやるんですか?」
「ええっと……二年後?」
「…………けっこうありますね」

 なるほど。盛大な宣伝はまだされていない説が濃厚そうだ。

「そうでもないのよ。ジムリーダーにチャンピオンともなると、スケジュールを合わせるのも大変だもの」
「えっ! そんなに声かかってたんですか」
「んー、あたしはカトレア経由でいち早く知ったって感じだから、他の人たちはこれからかも」

 へえー、そっかぁ。なら、ヒョウタやトウガンさんも行くのかな。そうなると、開催期間中は全国のジムとリーグが一斉停止したりすんのかな。それは……すげぇな。ほんとうに一大イベントだ。フロンティアブレーンはどうなんだろ。

「一般トレーナーも、勝ち抜きで参加できるって聞いたわ」
「へえー」
「シキちゃんと戦うの、楽しみにしてるわね」
「へえ!?」

 待ってそれ初耳! ぎょっとしてミルフィーユから意識を変えて、顔を上げる。シロナさんは、それはそれは楽しそうにニッコニッコと笑っていた。アッ、この人本気だ。





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