色白い助けの手
抵抗をしたり噛みついたりしなかったお陰か、拘束されるのは両手だけで済んだ。
銀髪さんに「さっさと歩け」とつつかれて足を動かした。
ジュプトルのゼンは、大人しくモンスターボールにしまっておいた。「下手なことをすれば殺す」と脅された。いや、脅しではないな。赤毛っぽい人はともかく、銀髪さんは、あたしが何かを間違えれば迷いなく刀を振るうに違いない。
もしかしたら、不意を撃てば逃げることは叶うのかもしれない。しかし石橋を叩くのもリスクが大きいと判断したあたしは、言われるがまま、二人の男性に連れられて見知らぬまちに連れてこられた。
あたしたちは、大きな塔に入っていく。雰囲気は、エンジュの塔に似ている。焼けた塔や、スズの塔。それをもっと大仰にした感じだ。
「これ、何の建物なんですか?」
「黙れ。喋るな」
「そんなことも知らないのか? 大阪城だよ、大阪城」
ツンとした態度の銀髪さんに代わり、赤毛さんが呆れたようにあたしを振り返る。
オオサカ城。それって、あたしが目を着けていたお城だ。ヒデヨシという人がいらっしゃる建物だ。
過程はちょっとばかり不穏になってしまったが、これはチャンスかもしれない。運がよければ、ヒデヨシさんにお会いできるのではなかろうか。
オオサカ城の門を潜りきったところで、銀髪さんがハッと凍りついた。それからバッと膝をつき、恭しく頭を垂れた。
何事だろうと前を見ると、白髪でやけにほっそりとしたお兄さんがこちらに歩いてきていた。
「おや、三成くん。それに左近くんも。どこに行っていたんだい」
「はっ。大阪内で、魔獣について尋ね回る怪しげな女が目撃されたとの報を受け、調査がため赴いておりました」
「ああ、あれか。ご苦労様。それで――彼女が、その怪しげな女とやらか」
白髪さんが、ついっとあたしを見る。冷たいというよりは、何か、なぞられるような視線だった。途端に居心地が悪くなる。
「大阪を秀吉様の許可もなく踏み荒らしていた不届きものにございます。お望みとあらば、今ここで、私が斬滅致しましょう」
そう言うが早い、刀に手をかける銀髪さんにあたしは後ずさる。
白髪さんはそういった銀髪さんの前のめりな態度には慣れきっているのか、考え込むようにあごを指先でこすると、あたしに歩み寄ってきた。
「……ふむ。君、出自は南蛮かい?」
「ナンバン? いいえ、出身はアサギシティです。ジョウト地方の」
「女。偽れば殺す」
以前から思っていたが、誤解があるとはいえ、ここまで攻撃的に接されると流石に不快だ。気持ち悪くなって眉を潜めると、白髪さんがゆるく片手を持ち上げた。銀髪さんは口を閉じた。
「すまないね。自分の立場は分かっていると見るが……あさぎしていという地域は、僕も初耳だ。君の名前は?」
「シキです」
「シキくん。ここ数日、魔獣について訊き回っていたというのは、君で間違いないだろうか?」
「「ここがどこなのか」「魔獣とはなんなのか」「ポケモンではないのか」「魔獣と一緒にいる人を見なかったか」「ヘラクロスとビビヨンを連れた男の人を見なかったか」――などの質問をくり返し、野宿をしていた人間をおっしゃっているのなら、それはあたしです」
「人を襲っていた魔獣を、魔獣を用いて助けたのは?」
「ああー、それもあたしです」
たしかに一度、そういうことをした。ゴローンに襲われていた人だった。一休みをしようとして、ゴローンの上に座ってしまったのだと言っていた。
「手を出したまえ」
両手を差し出す。白髪さんはあたしの両手をきつく結ぶ紐をほどくと、「三成くんがすまなかったね」と再び謝った。
銀髪さん――ミツナリと呼ばれた人が、あたしを睨みつける。
「半兵衛様、よろしいのですか……!」
「少なくとも、僕たちに今すぐ敵対するような人間ではないと思う。対話する気は、彼女にも十分にあるらしい。……君に訊いてみたいことがあるのだが、構わないね?」
幾分か、脅しを含んだ提案なんだなとなんとなくだが感じ取った。でも、あたしが攻撃手段などに訴えなければ荒事にはならない、と思う。
「ありがとうございます」と頭を下げて、あたしは首を傾げた。そういえば、この人の名前をまだ知らない。
白髪さんは、小さく口角を持ち上げて、名乗った。
「竹中半兵衛。大阪軍の軍師をしている。こちらは石田三成くんと、その部下の島左近くんだ」
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