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白旗、降参、両手を挙げる

「ゼン! リーフブレード!!」

 つるぎとなったジュプトルの腕の葉が、振り下ろされた刀と交差する。受け止められた凶器と受けた腕が立てた金属質な音が鼓膜を引っかいた。
 銀髪の男は鋭い瞳を見開いた。目にも止まらぬ速さで抜かれた刀は、あたしに届きはしない。
 少しだけ迷って、指示を重ねる。人間にポケモンのわざを、なんて本当ならご法度なのだ。警察の目につけば良くて指導の厳重注意。普通は罰金で、悪ければ裁判沙汰にだってなる。
 でも今ばかりは、法を気にしてはいられない。何もしなければ危ないのはあたしで、あたしはこの人のように自分で凶器なんてふるえない。どうすれば人を傷つけずに現状を打破できるのか。戸惑うのはいい。躊躇うな。考えろ。考えろ考えろ!!

「でんこうせっかで突き飛ばせ!!」
「っ三成様!?」

 相手のふところに飛び込んだゼンは、そのまま思いっきり体当たりをした。男性は木に叩きつけられるが、刀は手放さない。立ち上がられるより先に次いで叫ぶ。

「くさむすび!!」

 これで少しは時間が稼げるはずだ。近場の茂みに身を隠すように割って入り、走る。

「ゼン! 逃げるよ!!」
「逃がすな左近!! 追え!!!」

 だーっ、追ってくんな!! 胸中で絶叫しながら、あたしは駆ける。ラノを出す暇もない。

 オオサカ城を目指そう。そう決めた、翌日の昼のことだった。
 テントを片づけて荷物をまとめ、さぁ出発だと意気込んでいたあたしたちの前にあの人たちが現れたのだ。目が怖い銀髪の人と、赤っぽい軽そうな人。誰だろう、と真っ先に思いながらも警戒した。どうにも、これまで人里で話したことのある人たちとは雰囲気が違ったからだ。
 まず、銀髪の人が開口した。貴様が外来の者か、と。そして腰に帯びていた刀の鯉口を切りながら続けたのだ。答えろ。貴様は豊臣の敵か、味方か。偽れば、首を刎ねる。
 やばいなこれ。やばい人だな。脳裡で鳴った警鐘に従う。あたしは舌の上で声を転がしながら、何でもない風を装ってゼンを開放した。抜刀されたのは、この直後だ。まじゅう、と銀髪の人は言った。声に練り上げられていっている感情は、敵意だった。

 息を切らしながらうしろを見ると、赤い人が視認できた。赤い人だけかな? もう少ししたら銀髪さんも追いついてくるかも。くるりと振り返る。ゼンと目を合わせる。できるだけ、近いほうがいい。

「こうそくいどう!」
「おわっ!?」

 一気に肉薄して赤い人に詰め寄ったゼン。
 言葉を連ねながら、自分の耳を塞ぐ。

「りんしょう!!」

 鼓膜を揺さぶる音波が、こだましているのだろう。赤い人が耳を塞ぎながら、膝をついている。それを見て、改めて背を向けて逃走を再会する。ああくそ、足場が悪いな。森林地帯をダッシュするなんて、早々ない。

「逃げるなァァァ!!! 斬滅してやる!!!」

 こっわ! 何いまの! 追いかけられたら逃げるしかないでしょフツー!!

「っゼ」

 ゼン――と。最後まで呼びかけることは、できなかった。立ち止まったのは反射だ。
 あたしの前には、くさむすびで拘束してもらったはずの男がいる。抜身の刀はあたしの喉に突きつけられていて、それはよく見ると闇色の妙な光? オーラ? を纏っている。わななく喉に固唾を飲むと、現実を警告するように、わずかな痛みがちくりと刺さった。
 おい、マジか。この人、このフィールドで、ジュプトルの速さを、超えた? ――人間なのに?

「動くなよ、魔獣」

 下手な真似をしてみろ。この女の首を飛ばす。静かな声には、激情が編まれている。
 あたしのすぐ背後にいるらしい、ゼンに向かって落とされたのは、間違えようもない脅迫だった。





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