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テーマ「推しとの恋」
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誰かと食べる夕飯

 まだ行ったことがないアローラ地方には、時空について追究している研究所があるらしい。
 でもなぁ。あれから何かがあったわけでもないし、やりのはしらで観測した不安定のためだけに動くのも決定打不足だ。徒労で終わることが分かりきっている。
 シロナさんは、結果を聞くと眉をしかめていた。けどそこから先、あたしにもっとを求めたわけではないから、あそこでこの話は終わったのだ。ありがとう、と言われて、それでこの件から手を引くことにした。あとになって起こることを、知らなかったからそうできた。

「シャラサブレ」
「シャラサブレ?」
「カロス行くんでしょー。お土産のリクエストだよ。シャラシティってとこの名物」

 バトルファクトリー。
 ロビーでカロス特集の組まれた雑誌を見ていると、うしろからヒョイと声がかけられた。ネジキだ。時計を見ると。針は閉館時間を五分ほど過ぎたところを指している。ありゃ、もうこんな時間か。
 バトルキャッスルに用があって、ネジキと待ち合わせをしていたのだ。バトルキャッスル、といっても目的は挑戦ではない。コクランさん、ひいてはキャッスルに貯蔵してあるポケモンの資料に視線が向いている。キャッスルは、バトルフロンティアがオープンする前からこの土地にあった歴史深いものだ。カトレアの家がそういったことに細やかなことも起因しているのだろう。あそこには、ミオ図書館よりも膨大な資料が保管されている。
 カロス地方への出立まであとすこし。それまでに、多少はカロスのことを調べておこうと思ったのだ。インターネットも便利だが、あたしは調査となると自分の足で赴いて、選んだ紙を手に取ることが好きだ。
 ネジキには、キャッスルへの付き添いをお願いしている。付き添いって言うか、協力? キャッスルの書庫は広いから、人手が欲しかった。イッシュに行っているカトレアに代わって城を預かっているコクランさんは忙しいだろうし、手土産と夕飯を条件に引き受けてくれたのは僥倖だ。
 シャラサブレね。オッケー。覚えとく。向こう着いて確保したら送る。頷いて、ファクトリーヘッドとともにキャッスルへと向かった。

 収穫はそれなりにあった。カロスに伝わる伝説のポケモンのこと。やはりあちらにもある遺跡のことと、それから歴史。セキタイタウン、興味ある。
 これ以上は、直接あちらでお調べになったほうがいいかもしれませんね。コクランさんにすすめられて、頭を下げる。その通りだ。民話や伝承などは、やはり現地のほうが密度が濃いに決まっている。
 お礼のお菓子をお渡しして、キャッスルをあとにした。滞在時間は二時間くらいだった。

「メインはさ、観光?」

 カロス地方に行く、その目的は。言外に込めて、チーズドリアをつつきながらネジキは尋ねてきた。ポセケンでやや遅めの夕飯を食べている席でのことだ。あたしが舌鼓を打っているのはミートソースドリアだ。
 それもある、と応える。

「あとは友達。友達に会いに行く」
「なるほどー」

 モコにねだられたので、ドリアをひとくちすくってあげる。モコは食べていたパンを分けてくれた。バターが効いていて美味しい。ゼンがこちらを見ていたので、食べる? と首を傾げるとかぶりを横に振られた。さようですか。

「カロスはまだ行ったことなかったからさ。思い切って行っちゃうかぁって」

 ジョウト、カントー。シンオウにホウエン、それからイッシュ。六年かけて、ここらを気まぐれにふらふらしている。振り返ってみて、感慨深い。カロスを後回しにしていたわけではないのだが、気の移ろいに任せていたのでなかなか機会を得られなかったのだ。

「……シキって、実家はジョウトだったよね」
「うん」

 実家っていうか、出身? 実家自体は、また別にあるし。

「今どこに住んでるの? 一人暮らし?」
「……どこにも住んではないな。拠点がシンオウってだけ」
「そうだったのかー。それは初耳だ」
「言ってなかったっけ?」
「ミオにでも住んでるのかと」
「住んではないなぁ。ネジキは寮住みだよね」
「うん。ファクトリーのね」

 言って、彼は最後のひとくちをスプーンに乗せた。
 あたしもそろそろ食べ終える。あ、あとコンソメスープ残ってたんだった。忘れてた。





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