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何よそれ、ずるい

「ジョウトにロケット団が?」
≪ああ。ここ最近よく見られているらしい。あいつら、懲りもせずにまた何かやらかそうとしているのかもしれねぇな……気になるなら行ってみたらどうだ?≫
「そうだなぁ……あーでもリニアは調整中……くそ、滝越えするしかねーか」
≪調整が終わるまで待つっていうのは≫
「ない」
≪デスヨネー≫

 そういうわけで、トージョウの滝を越えるために俺はトキワシティへと足を運んでいた。何気にジョウトに行くのは初めてなので、買い出しなどはしっかりと行う。高度かつ長距離飛行に最適なカイリューなんかがいたらよかったのだが、いないからにはグチグチ言っていても仕方がない。
 重くなったリュックにうんざりしながら歩いているとポケギアが鳴る。グリーンだ。

「はいはいもしもし」
≪悪い、止められなかった≫
「はい?」
「アサギ!」

 おっとこの声はもしかしてなくても。
 振り返ればグリーンの言葉の意図が自ずとわかって空笑い。≪あちゃー……≫グリーンの罪悪感を滲ませた溜息に「把握把握。大丈夫どうにかするわ」と答えて電話を切る。
 改めて向かい合う。目が合ったレッドの一つ下の妹――リーフは息を弾ませてそこにいた。レッドが行方知らずになって間もなく、レッドを捜すためにフシギダネを連れてマサラを発った彼女は、今では立派なポケモントレーナーの一人だ。
 しばらく見ていなかったリーフを見て、やはり旅は人を逞しくするのだな、とそんなことを考えた。兄に似てやんちゃな雰囲気を漂わせていた瞳はすっかり落ち着いてしまっていた。レッドとグリーンと並んで、なんやかんや彼女を可愛がっていた身としては、実の娘が急成長して遠くなったような奇妙な気持ちになる。

「よ。久しぶり、リーフ。息を切らせて何の用だ?」
「グリーンから、アサギがお兄ちゃん捜しに発ったって聞いてっ……!」
「いつの話してんだか……んでお前は居てもたってもいられなくなった、と。走り出したら止まらないのは兄妹揃ってそっくりだな」
「それでっ、何か手がかりはっ!?」
「ン、いや、手がかりといった手がかりはからっきしなんだが……ジョウトに行こうかと」
「ジョウトォ!?」
「ロケット団がまた出てきてるらしくて。それが少し気になったから」
「……あたしも行くわ!」

 ほら来た。そう来ると思ったぜ。間髪入れず「駄目だ」と却下すれば、リーフはぐっと口をつぐみ、それから突っかかるように「どうして!?」と少しヒステリックに怒鳴った。女性特有の高い声は頭に響く。

「お前はカントーに残れ」
「だからどうして!?」
「お前らの親、余計に心配させちまうだろーが。リーフまで行方不明とか勘弁してくれ」
「ならないわよそんなお兄ちゃんじゃあるまいし!」

 そのお兄ちゃんにそっくりなんだっつーのお前は。離しまいと必死に食い付いてくるリーフの姿は前世の奥さんを彷彿とさせた。女って変なところで頑固だよな、やっぱり。

「リーフ、お前今バッジいくつよ」
「えっ……な、七つだけれど」
「……グリーンか」

 あと倒せていないのは。そう意図を含んで見れば、リーフは気まずそうに俯いた。七つ。それだけジムを攻略できればトレーナーとしてはかなり優秀な方だ。でもレッドはそれ以上まで見てしまっている。やはりリーフにレッドを捜すためにとカントーから出すのは、少し荷が重いだろう。せめて、

「……殿堂入りとまでは言わないから、せめてグリーン倒してジョウトに行け。何があるかわからないしな。……あ」
「……?」

 そういやまだあった。カントーに。親もグリーンも俺も隅々まで捜せていないだろう場所が。

「リーフ、お前ナナシマ行った?」
「え…………ま……だ、だけれど」
「じゃあ丁度いいや。お前ナナシマ担当な、俺もまだあっちは探してねぇんだ。んで俺はジョウト担当。連絡係がグリーン。これで完璧」
「は、ちょ……何よそれ、ずるい」
「何がずるいん……? ナナシマをすみーずみまで捜し終えたら、グリーン倒してジョウトまで来いよ。な?」

 そうだ、それがいい。ナナシマの方がジョウトよりも身近だし。
 まだ不満そうにぶーたれるリーフを宥めるようにぽんぽんと撫でてやる。昔から不機嫌な時のこいつは、こうすると渋々だが身を引くのだ。引いてくれる、が正しいのかもしれないが。
 思惑通りリーフは静かになった。そしてぽつりと。

「……電話」
「うん?」
「ジョウトについたら、小まめに電話してね。グリーンとかとは別に」
「おう、時間がある時にする」
「……あと。……いなく、ならないでね。お兄ちゃん、みたいに」

 そう震えた声で言われて、ようやく気づいた。こいつはこいつなりに、俺のことを心配してくれてたのかと。だからあんなにも……。
 俺もまだまだ馬鹿だなぁ。ふっと笑みが溢れて、今度はわしわしリーフの頭を撫でる。

「ならん。ちゃんとあいつ――レッド引きずって、帰ってくる」
「絶対よ」
「まかせろや」
「……ああもういつもで撫でてるのよボサボサになっちゃうじゃない!」
「おう悪い」

 あーあ、これはいよいよ背中が重たくなったわ。苦笑いして俺は真っ青な天空を仰いだ。
 レッド、お前今どこにいるんだよ。妹泣いてんぞ。


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