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テーマ「推しとの恋」
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アローラトリップお試し(男主)


 幼馴染が死んだ。
 凍てやすい空気が春の気配を抱き込みつつあった、冬の終わりの頃だった。
 交通事故だった。高校からの自転車で帰路についていたところを、トラックに撥ねられたらしい。目撃者によると、歩道を移動していた同級生らにぶつかられて、自転車ごと車道に傾いたとのことだった。
 高校三年生としての生活も幕を閉じかけていた彼女は、卒業はもちろんのこと、大学への進学も決まっていた。
 あいつが事故に遭った日、俺は家にいた。手前の数日間はインフルエンザで寝込んでいて、ようやく日常生活が滞りない程度に快復してきていたのだ。
 固定電話の受話器を手に取った、母親の動揺。震えていた声。空気をいやに読んだみたいに降り出した、冷たい雨。水を飲みにリビングを訊ねたところ入ってきた突然の訃報に、呆然としたのを覚えている。
 きのう会ったばかりの人間に、もう二度と会えなくなった。その感覚は、なんとも奇妙で、気持ちの悪いものだった。
 病み上がり後真っ先に訪問するおおごとが友達の通夜だなんて、あとにして思えば最悪だ。
 参列者は、泣いていた人が多かった。喪主をはじめとする家族は言葉ひとつ吐くのもひどくしんどそうで、一言を紡ぐたびに喉には嗚咽が覆いかぶさっていた。
 クラスメイトと思われる人間も、なかば放心していたように感じた。中学や小学校でいっしょだったのだろう人たちもそうだ。
 ひと段落つけば、喋り出したのは、あいつとはほとんど関わりのない人たちばかりだった。お悔やみを申し上げます。決まり文句を親族に送り、背を向けてしずしずと去っていく。

「まだ若かったのに、かわいそうに」
「大学も決まっていたんだって?」

 ほの暗い静寂をにわかに賑やかす声色を背後に、俺はおそるおそると彼女の顔を覗き込んだ。
 冷たい顔色をしている。「眠っているよう」という表現は、こうして目の当たりにするとなるほどたしかにぴったりだ。しかし、頬や額に痛々しく残っている傷が治ることは当然ない。きれいに拭われてこそいるが、こいつが眼を覚ますことは、もう二度とないらしい。

「カナメ」

 誰にも聞こえないように、聞こえるのなら彼女にだけ届くように、俺は囁いた。当たり前に、返事は帰ってこない。それで俺は、幼馴染はもうこの世にいないのだと、なんとなくだが本当に理解できたのかもしれない。俺が見ているものは、ただの肉のかたまりだ。
 お前は、今度発売するテレビゲームの話をしていたな。楽しみだって、目をきらきらさせながら話していた。受験が早く落ち着いてよかったと、安心しながら胸を弾ませていた。そのゲームも、できなくなったわけだけれど。
 涙は出なかった。
 なんでだろうな。俺は思った。
 どうして、こいつじゃなきゃいけなきゃいけなかったんだろう。



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