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「#甘甘」のBL小説を読む
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mcu/dr.s(男主)


※男主
※IW直前っぽい時間軸の話









 また来たのか、と言いたげな顔をされた。
 私は彼を気に入っているのだが、彼はそうでもないらしい。というか、「また来たのか」とは実際に声に出されたこともある。私は「また来たよ」と笑って返したのだっけ。

「息災で何よりだね。君の顔を見るとホッとするよ」
「そうそうくたばりはしない。私には使命がある」

 ストレンジは私から興味をなくしたように踵を返した。私に構っている暇などないのだろう。彼女が亡くなりカエシリウスを退けてからというもの、ストレンジは日々魔術の修練に励んでいるようだ。
 私はサンクタム内を見回しながら、階段の段差に腰を下ろした。外から隔絶されたかのような静寂が鼓膜を撫でる。ニューヨークは今日も人々の生活でにぎわっているというのに、こうしてここに足を踏み入れただけでまるで別世界を訪れているかのようだ。

「前々から、訊こうと思っていたことがある」

 ストレンジが戻ってきた。振り返るとチョイチョイと手招きをされる。
 さそわれてそのまま奥の部屋にやって来た。ソファに腰を下ろし、出された紅茶を口に含むと、両手を組んだ魔術師が話を始めた。

「これからこの星に、脅威が降るだろう」

 私は彼の首から下がっているアガモットの目を見つめた。視線に気づいたストレンジがペンダントにふれ、指先でその表面を撫でた。

「その石で視たのかな?」

 そう遠くない内に起こるだろう、途方もない災いを。
 途端にストレンジは顔をしかめた。

「知っているのか」
「ただの予測だね。災厄が空からやって来るだろう」

 私は地球の人間よりもよほど広くを見ることができるが、さりとて果てまでを見渡せはしない。

「お前は、どうするつもりだ」

 ストレンジは腕を組み私を睨みつけた。彼の態度には怯えや不安は現れておらず、気丈だな、と私は思った。いや、そういった暗雲以上の覚悟が、彼を頑なにしているのだろう。目の前にいる私というものがおかしな素振りを少しでも見せたら、きっと迷いなく排除しにくる。
 エンシェント・ワン。魔術師としてのすべてを最後の弟子に託した彼女は、そう佇ませるだけの影響を遺した。

「災禍にはつかないと言っておう」
「どうだかな」
「信用がないね。しかし考えてもごらんよ、ストレンジ。私は電池のマイナス極だ。いつか来る災いもしかりだ。引かれあったりはしない。私にとってのプラス極は地球にある」
「それは、」

 ストレンジは、口を閉ざした。傲慢にものを言う彼には珍しく、言葉とするのを躊躇っている。私を気遣っているのだろうか。
 「……いや」と彼はかぶりを振った。仕切り直しだ。口ごもった男に代わり、私は提案を舌によそった。

「君は災厄に抗うつもりだね。ならばどうだろう。私がいい術を教えてあげようか」
「お前のそういうところは信用ならない。けして頷くなとも彼女は言っていたぞ、この悪魔め」
「それは手厳しい。きっと君を助けられると思ったのにな」

 どうしてこう変なところで意思が強いのかな、君たちというやつは。
 思えばエンシェント・ワンもそうだった。私の誘いに首肯しておけば、終わることもきっとなかっただろうに。惜しい。実に惜しい、いい女をなくしてしまった。随分と長い時間声をかけ続けたのに、とうとう手に入れることは叶わなかった。あれほどの星は、これからもそうそう現れない。

「ストレンジ」

 怪訝で鋭利なまなざしが、私を捉える。

「紅茶のおかわりをおくれ」
「話は終わりだ。お前はそろそろ帰れ」

 なぁエンス。君の希望は、今日も私に当たりがキツいね。


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◆ホリー
と名乗る長身痩躯の男。見た目は若い。年齢不詳。
エンシェント・ワンにたびたびアプローチをかけていたが、振り返られることは一度もなかった。
ストレンジのことも気に入っており、アベンジャーズのファンを自称する。IWではストレンジに助力しつつ地球に残っていたが、終盤で死亡する。



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