四夜 静かな夜だ。 静雄は布団の中にくるまりながらぼんやりそう考えた。 今夜はクリスマス。サンタクロースの鈴の音一つ聞こえてこない夜中、うつらうつらと眠りながら静雄はひとり過ごしている。 今年も彼はひとりだった。 幽と連絡をとったり、トムさんにメリークリスマスと言われたりはしたけれど、結局夜はひとりだ。 でも静雄はこれを寂しいと思わなかった。むしろこんな静かな夜は嫌いじゃない。きっとどこの家の子供たちも今夜はさっさと床についてサンタクロースのプレゼントを待っているのだろう。…大人になった自分には、もう関係ないけれど。 瞼を閉じて、静雄は眠りの世界へ身を投じる。 そして次に目を開けたのは部屋の中で物音がしたときだった。 ……? ドアが開く音がした。 そして誰かが部屋の中に入ってくる音も。 一体誰だ、泥棒か?そう考えたけれど静雄は眠たさに目を閉じたままだった。 泥棒でも殺人犯でも何でもいい。襲われても勝てるような気がするから。 けれどその足音は静雄のそばで止まり、枕元に何かを置いた。 一体、なんだ?泥棒でもなさそうだが。 そう考えて、静雄は気がつく。…この香水の香りを、自分は知っていると。 恐らくそれは部屋に入ってきた何者かがつけているものだ。だが静雄はこの香りを知っていた。幾度となく嗅いだことがある、ずっと、…昔から。 すると、突然唇に柔らかい感触が降りてくる。それはすぐに離され、何者かは早足で部屋を出ていった。 部屋のドアが閉まると同時に静雄は目を開ける。 ……キスを、されたのか? 唇に触れるとそこは妙に熱く感じられた。 そして静雄はハッとして枕元を見やる。そこには小さなラッピングされた箱が一つ。その様子は幼い頃にもらっていたサンタクロースのプレゼントを彷彿とさせた。 静雄は丁寧にそれを破っていくと、中に現れた高級そうな箱も開ける。その中に入っていたのは、シルバーリングだった。手にしてみるとひんやりと冷たい。指に嵌めればサイズはぴったりだった。 静雄にはもうこの指輪をくれたのが誰か、分かっていた。 そして指輪と、キスの意味も。だから指輪をどこに嵌めればいいかなんて野暮な質問はしない。 静雄はすっかり熱くなった顔を玄関先に向ける。…走れば、間に合うだろうか。 白い息を吐きながら、静雄は駆け足で玄関の戸を開けて出ていった。 |