ピーターパンの臨静パロ。
臨也が変態。
下品なワードが陳列しているのでお気をつけください。
上記の理由でR15




カモメの鳴く声が、青い海を引き立てている。ざああ、ざああと続く波の音は最早日々を生きる中でのバックミュージックと化していた。
輝く太陽に静雄が目を細めていると、船員の一人がこう告げる。
「奴が来たようです!」
その言葉に静雄は琥珀の瞳を太陽のごとくぎらつかせ、不敵ににやりと笑った。そして彼は眼前に浮かぶ夢の島へと目を向ける。遥か遠くを見据えるその様は、まるで軍神マルスのよう。だん、と大きな音を立てて船のマットを踏みつけ静雄は声を張り上げた。
「全員配置につけ!いいか、邪魔する奴は皆殺す!手前ら手ぇ出すんじゃねぇぞ!あいつは俺の獲物だ。」
船員たちは雄々しく返事をし、各々配置につく。やって来る敵には船員たちお得意の大砲もサーベルもいらない。何故ならば、その敵と戦うことができるのは船長である静雄だけだから。

静雄は五感を研ぎ澄ませて、敵の訪れを待つ。潮の匂い。風の流れ。色鮮やかな島。空気が裂ける音、………そう、これが奴が飛んでくるときの音だ。
来る。
そう身構えて目をよく凝らすが、島の緑に溶ける奴の服の色のせいでなかなか見つからない。鳥のように飛ぶ奴の姿はどこにある?
探せど見つからないものだから、苛立ち、舌打ちをした瞬間。

「やあ、シズちゃん」
真後ろからの耳元への囁きに、静雄は本能のまま振り返った。
そして鋭い金属音と共に静雄の右手からのびる鉤爪と、相手方のナイフが重なる。ぐっと腕に力を入れながら、静雄は相手の男を睨みつけた。

そう、その男こそが静雄の敵。緑の服を身に纏い、帽子にはオレンジの羽根。口元で弧を描きながら、永遠の少年ピーターパンこと臨也は妖しく嗤った。
「俺のことを待っててくれたんだ、優しいシズちゃん。」
「うぜえ死ね消えろ殺す!」
揶揄するように言った臨也に静雄は唸るようにそう返した。獣のごとく爛々と光る瞳を、臨也は酷く楽しそうに見つめる。
「ほんと、愛されてるなぁ俺。」
静雄に次々に鉤爪の応襲を繰り出されつつも、臨也はそう呟いた。そして彼はふいに静雄の胸ポケットから出るハンカチに目を向けた。鉤爪、もといフックの異名を持つこの男は大の綺麗好きで有名である。真っ白に漂白されているハンカチはきっと柔らかく、静雄の匂いに包まれながら、様々な場面でさぞかし静雄の役に立っているのだろう。例えば流れる汗を拭うためだとか、意外と涙もろい彼が涙を流すときとか、例えばそう、トイレの後の手洗いだとか。

鋭く臨也の目が光を放つ。…そこからは早かった。静雄が大きく腕を振りかぶって鉤爪を振り降ろそうとした瞬間、彼は素早くかつ正確に白いハンカチを掴んで奪い取る。手を引いた勢いを利用して後ろに数歩下がれば、鉤爪は臨也の鼻先を通過していた。−−−間一髪、といったところか。
「今日はこのくらいにしておいてやるよ!」
臨也はそう言ってハンカチを片手に手を振る。静雄は潮風に吹かれる自分のハンカチを見て目を見開きながら声をあげた。
「あ!お、おい、手前それは俺の、」
「じゃあね!」
子供のようにきらきらとした笑顔を残して、臨也は船から飛び降りるようにして空わ飛ぶ。静雄が駆け足で追いかけよいとするや否や島へと飛んでいく臨也の姿を目にして、強く歯を食いしばる。
また、逃げられてしまった。何度も、何度も何度も何度も何度も殺そうとしているのに叶わない。

「いいいいざああああやあああああ!!」
悔しさに雄叫びをあげれば、飛んでいく臨也が背中で笑ったような気がした。




夢の島、ネバーランドをとりまくこの世界はロンドンの子供たちが言う、いわばおとぎの世界を体現したような場所である。人魚、巨大な鳥、見たことのないような花々、インディアン、海賊、そしてピーターパン。永遠の少年と謳われるピーターパンはこの島の孤児たちの長でもあり、自由に空を飛ぶことができる、妖精に愛された子供だ。世界中の子ども達の憧れ、誰もが彼に憧憬を抱いている。−−−−ごく少数の人を除いては。


「あのクソノミ蟲野郎!いつになったらくたばるんだ!」
不機嫌にラム酒のグラスを机に叩きつけ、フック船長もとい静雄はそう言った。
その様子に苦笑しながら、零れたラム酒を拭いてやっているのは水夫であるスミーこと門田だった。臨也との戦いの後はいつも静雄の機嫌は絶不調である。それを知っているから、門田としてはあまり臨也が船に乗り込んでくるのを好ましく思っていなかった。
「まあ、なかなかしぶといと言えばしぶといよな。」
それからラムをこぼすな。そう付け足すと静雄は悪ぃ、と慌ててグラスを意味もなく置き直した。
「あんまり性格のいい奴じゃないが、あいつはまだ子供なんだからそうむきになるなって。」
「子供じゃねえだろ!永遠の少年とか自称してるがあいつは俺らと同い年!もう25になるだろうが!」
「静雄、それ以上言うな。あいつにも、まあ、いろいろあるんだろ、多分。」

ピーターパンこと臨也、25歳ですが永遠の少年です。そう笑顔で言ってのける臨也が、安易に門田の頭に思い浮かぶ。確かに実際の年よりも彼は幾分か若く見えるようだ。顔は眉目秀麗で、色気のある赤の瞳には人魚たちからインディアンの娘まで揃ってメロメロである。一見すると、彼は優しく、かっこよく、穏やかな好青年に見える。が、一度彼の性を知れば二度とそんなことは言えなくなるだろう。女は遊ぶためのおもちゃ。他人の不幸は蜜の味。趣味は静雄への嫌がらせ。さらに静雄を海に突き落とし、なんとワニに右手を喰わせたという鬼畜外道だ。極めつけは、彼は毎度静雄の元に訪れては静雄のものを何か盗んでいっている。…盗まれたものが何に使われているか臨也の性癖から大方予想はついたが、門田はそれについてあまり深く考えたくなかった。
「ともかくだ!どうすりゃあの野郎を殺せるかを考えよう。いい加減ほぼ毎日の頻度で物盗まれちゃあこっちだって困るんだよな。あのハンカチ、気に入っていたのによ…」
残念がる静雄を見て、そのハンカチが辿るであろう末路は絶対に言えないな、と門田は思った。
「そんなに大切だったんなら、取り返しに行ってもいいんじゃないか?」
静雄の部屋の床掃除に取りかかる準備にをしながら、門田は軽い気持ちでそう言う。…ほんの、軽い気持ちだった。
その言葉を聞いた静雄は面食らったように固まる。なるほど、取り返しに行くという発想はなかったな。
「まあそんなことしたらあいつがただでお前を帰すとは思えな、」
「門田、日が暮れるまでに帰る。ちょっと一発ぶん殴ってくるわ。」
門田の言葉を聞くこともなく、静雄は自慢のジャケットを着て、出発の準備を始めた。その様子にぎょっとして、門田は思わず顔を上げる。
「ちょ、ちょっと待て静雄!止めておけ!なにされるかわかったもんじゃないぞ!」
「馬鹿、俺は大丈夫だ。取り返して殴ったらすぐに戻ってくる。」
門田の制止の声を無視して静雄はついに出て行ってしまった。遠のいていく静雄のブーツの足音に、門田は深い溜め息をつく。果たして彼は無事に帰ってこれるだろうか。
うちの船長に妙な真似をしてくれなきゃいいんだけどな。
門田は臨也のことを思い浮かべて、ますます不安を募らせた。




不覚だった。
静雄はジャングルのように緑が生い茂った森の中で、ただひとり佇んでいる。右も左も木、木、木。自分が今どこにいるのか、静雄はまったくわかっていなかった。それどころか、彼はピーターパンの住処さえも知らない。島に詳しい船員をひとりくらい連れてくれば良かったと、彼は後悔した。
だがここまで来て後戻りなどしたくはない。己の勘を頼りに、彼は進み続ける。宛もなく、臨也を見つけるために。

ピーターパンとフック、つまり臨也と静雄の仲の悪さはネバーランド中の誰もが認めるほど険悪なものだった。そんな二人の出会いはまだ彼らがとても幼かった頃のものである。彼らが10歳にも満たないとき、静雄は突然イギリスからネバーランドに姿を現した。そこで最初に出会ったのが、臨也だった。臨也は静雄を気に入り、自分の一味に引き入れようとしたが、結局静雄は海賊の仲間になった。もともと水夫見習いとして船に乗っていた門田と友人になったのもちょうどその頃だ。静雄としては誘いには断ったものの、別に臨也とは友人として付き合っていこうかと考えていたのだが、次に会ったときから臨也は静雄に対して憎まれ口ばかり叩くようになり。そんな臨也の態度にもちろん静雄は苛立つわけで。きっかけは些細なことだったけれど、10年以上経った今では、最早二人の溝は底が見えぬほどに深まっている。

最初はこんなじゃなかったのにな。
森の中を歩き続ける静雄は、暑さにぼんやりとしながらそう考える。時がそうさせたのか、どう足掻いてもこうなっていたのかは分からないが、ピーターパン一味と海賊なんて敵対する関係に望んでなったわけではない。…もっとも臨也と仲良くなりたいなんて考えは、毛頭ないのだが。一言で言うならば、今や大嫌いの類にさえ入るくらいだ。

「にしても、暑い…暑すぎるだろ。」
だらだらと流れてくる汗を鬱陶しく思いながら、静雄はそう呟く。海には爽やかな潮風が吹いているというのに、森はなんて蒸し暑いのだろうか。これだから、船の上から離れたくないのだ。
静雄は青の上品なコートとベストを脱いでシャツ一枚と青のスラックス姿になる。汗のせいでいくらかシャツは濡れていた。ああ、早く船に戻ってシャワーを浴びたい。綺麗好きの静雄は心からそう願う。

しばらく歩いていくと、森が突然ひらけて大きな湖に辿り着いた。水面が太陽の光に反射して煌めいている。美しい透明の水に体を浸したい衝動に駆られたが、なんとか自制心を保った。
だがこのままでは干からびてしまうと思ったので、ここで静雄は一息つくことにする。大きな大木に寄りかかって目を閉じれば、少し暑さが楽になったような気がした。何も考えず、木々の葉が揺れる音だけを聞いていると、なんだか心が落ち着いてくる。体のだるさもそのうちとれるだろうか、と静雄が穏やかに考えていた、そのとき。

「………シズちゃん?」
出来れば今は聞きたくなかった、テノールの声が耳に届いた。目を開けなくとも誰が自分を呼んだかなんて、分かっている。ゆっくりと目を開けると、やはりそこには臨也の姿があった。すごいな、俺の勘。でもタイミングは最悪だ。
臨也は酷くうろたえていた。きっと俺がここにいることに驚いているのだろうと静雄は考える。だが、実際にはそれとはもっと別な箇所で狼狽していることを静雄は知らない。
だがそんな臨也とは裏腹に、穏やかだった静雄の気分は臨也の顔を見て、どんどんと悪くなっていった。徐々に、忘れていた怒りが燃え上がってくる。
「おい、手前…返してもらおうか。俺のハンカチ、いや俺から盗んだもんすべて!」
「いや。それはおいといて、シズちゃんどうしたんだよその格好。」
静雄の上半身から目をそらさずに臨也はそう言った。そんな臨也の物言いに青筋を浮かべて、静雄は続ける。
「おいといて、だぁ?ふざけんじゃねえ!あのハンカチ気に入ってたんだよこっちは!」
「うんうんわかった、だからなんで上半身シャツ一枚でしかもそのシャツが濡れてるのかな。」
「今はシャツが濡れてるとか、んなのどうでもいいだろうが!」
「よくないよ!肌が透けてるんだよ!死活問題だろ、早く隠して…」
「男の肌に、死活問題もクソも、あるかあああああ!」
静雄の脆い堪忍袋の緒が、ついに切れた。わなわなと鉤爪のついた右腕を振り上げて、勢い良く下ろす。

だが、静雄は知らなかった。
臨也が普段はけして見えることのない静雄の肌が透けているのに、理性を失いそうだったこと。
昔から実は臨也は静雄のことが性対象として好きだったこと。
そして静雄が右腕を振り上げたことによってシャツが引っ張られ、静雄の胸の飾りらしきものが、うっすらとけれどしっかりと臨也の目に入っていたことを。

静雄の振り下ろした鉤爪は、臨也が驚くべき瞬発力でかわしたことにより空を切る。その早さに驚いている暇もなく、臨也は振り切った静雄の鉤爪を、静雄の背後の木に勢い良く突き刺した。
鈍い音を立てて大木に刺さったそれは静雄が動いてもびくともしない。驚きに目を見開きながら、静雄は僅か2秒間のうちに起こったことを反芻した。
そして臨也が先ほどよりもずっと近くによってきていることに彼は気がつく。臨也は口元に笑みを浮かべてはいたものの、瞳の奥がどこかタガが外れてしまったような色をしていた。
「いざ、」
「ああそう、わかってないなら一から全部教えてやるよ。気づいてないようだけどシズちゃんって物凄くえろいんだよ。」
は?
唐突に言われた突拍子もない言葉に静雄は唖然と臨也を見つめる。
えろい?悪い、聞き間違えたもう一回言ってくれ。
「色は白い、体の線は細い、腰が特にえろいね。誘ってるんだろ男を。」
「ちょっと待て。お前大丈夫か、暑さに気が触れたか、えろくねえよこんな筋骨隆々とした男なんか。」
「これだからシズちゃんはたちが悪いんだ!」
声を張り上げた臨也の迫力に思わずびくりと肩を震わせた。だが言っていることが正しいのはどう考えても自分のほうだと静雄は分かっていた。こんな、自分で言うのも変な話だが、the男の自分がえろいだなんて、この男は馬鹿なんじゃないのか、いやそれとも。
「え、なに、お前ゲイ?」
「ゲイかもねシズちゃん限定の!問題はそこじゃないだろまったくもう言っちゃったよ一生言うつもりなかったのにさ!」
どうやら俺の堪忍袋の緒が切れたように、臨也の中の何かも切れたらしい。不本意ながら古い付き合いだがこいつのこんな、感情をすべて吐露するような喋りは初めて見た。
「そうさ俺はシズちゃんが好きだ!シズちゃんラブ!俺は君が大好きだよ!セックスしたいしキスしたいし舐めたいし嗅ぎたい!それのどこが悪いっていうんだ、何も悪くないよねぇ?」
いやいや問題だらけだろう今の発言は。キスは百歩譲って発言だけは認めよう、だがセックス?やめろそんなおぞましいことを言うのは。舐めたいって何だ、嗅ぎたいって何だ、どこをどう舐めて嗅ぎたいんだよお前はよおおおおおお。
「この十何年間でどれだけ俺が君のことを好きだったか!女となにをするにしてもシズちゃんとだったらどうだろうって妄想しながらキスしたり抱き締めたりセックスしてました!それ以外でも日頃何かと妄想してました!妄想しない日はありません!」
そんなカミングアウトは求めてねえよ。謝れ、俺に。お前の妄想の中で好き勝手されていた俺にいますぐ土下座して謝れ、いやもう二度と妄想するな。
「そうそう、ハンカチだっけ?無理だよ返せない。だってもうおかずに何発か抜いてぶっかけたし?」
「え、は?」
この言葉にはさすがに声をあげざるを得なかった。あまりの衝撃に頭をくらくらさせながら、静雄は唖然とする。
「他のものも全部だめ!シズちゃんの匂いを嗅ぎながら抜くの最高なんだよねぇ!全部余すところなくぶっかけてまーす。」
「お、おおおま、お前、」
「あはは、びっくりした?そりゃそうだ。」
臨也は笑いながら、静雄の耳元に唇を寄せる。
「今まで普通な顔して会ってた奴に、あなたでオナってますとか言われちゃうんだもんねぇ。」
低くねちっこい声色に、静雄は肌を栗立たせた。やばい。こいつ冗談抜きにやばい。もともと外道だとは思っていたがここまでとは。
そして臨也は息を荒げながらそのまま静雄の首筋に顔を埋める。音が聞こえるくらい大きく、臨也が息を吸ったのがわかった。
「あー…シズちゃんの汗の匂いがする…。」
「うわあああお前まじで気持ち悪ぃ離せえええええ!」
ありったけの力で暴れようとするが、臨也がますます密着してくるので思うように抵抗ができない。加えて、太ももに何か固いものが当たる感触がして、静雄は絶望した。
嘘だろ、腰を押しつけるなあああ!なに興奮しておったててるんだこいつふざけんな!やる気まんまんじゃねえか無理無理無理!
あまりのパニックに涙さえ目に浮かんだ。
畜生、会ったばかりの頃はこんな奴じゃなかったのに。
″シズちゃん″
子供特有の愛らしい微笑みを浮かべた記憶の中の臨也が浮かんでくる。
それが今はなんてざまだ、男相手に興奮する獣となってしまった。

「シズちゃん…。」
吐息混じりに名前を呼ばれて、じっと見つめられる。
赤い瞳だけは昔と変わらず綺麗なままで。その瞳がまぶたに覆われて、顔が近づいてくるのに静雄ははっとした。
まさか、まさかまさかこれは。
嫌な予感しかしない。心臓が馬鹿みたいに鳴り響き、臨也にも伝わってしまいそうなくらいだ。 
有り得ない出来事の連続に、彼のキャパシティはもはや限界を越えていた。どんどんと近づいてくる顔、唇。頭が熱帯のようにのぼせて眩暈がする。

ああ、これが、俺の、ファーストキス…。

唇に柔らかい感触を得た瞬間、静雄の記憶はぷつりと途切れた。




(碇をあげよ、奴の愛から遠ざかれ。)




書いているこっちが嫌になるくらいの下ねたの多さに自分でも引きました(笑)



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