不器用すぎて伝わらない

「今日付けで、双児宮の女官になりましたリリアです。…アスプロス久しぶりだね?」と、言って微笑んでみるけれどアスプロスは表情を崩すこともない。
黄金聖闘士になるまで会うことさえ許されなかったから、私のこと忘れてしまったのかな?って思ったけれど、短く「…ああ」とだけ聞こえた。
私のことは忘れていないみたいだけれど、反応が何だか釈然としない。


「アスプロス様って呼んだほうがいい?」

「好きにしろ」

「じゃあ、アスプロスって呼ぶね」


それでも、笑顔を絶やさないように頑張って話してみるがアスプロスの表情は崩れない。
不毛でも何でもいい。昔みたいにアスプロスと会話がしたい。
私だけに見せてくれた笑顔で話して欲しい。そう思ってしまう私は欲張りなのかもしれない。
昔と違って、アスプロスには双子座黄金聖闘士としての立場があるのに、それを理解しようとしない私が悪いのだろうと、思っていた。
数日が過ぎ、ぼーっと掃除をしていたら寝室に飾ってある花瓶を割ってしまった。
綺麗な薔薇が活けてあったのに、私の不注意によって割ってしまったことは変わりない。
きっと、アスプロスはこれを見ても怒ることはしないだろう。ただ、「そうか。代わりを買ってくれ」とだけ言っておわりだ。
無意識のうちに私がアスプロスに構って欲しいようにも思えてしまう。
大きな欠片だけ拾い集めようとしたら、尖っていた部分で指を傷つけてしまった。
そこから血が流れ出すが、多少のことだから気にすることもないと思いそのまま作業を続けていたら、急に腕を掴まれた。


「何をしている?」

「えっ…と、その」

「割ったのか。指から血が出ている。指をかせ」


強引に手をアスプロスの方に向けられて、怪我をしたことよりも掴まれている腕のほうが痛い。
「…痛っ」と声を上げると指が痛いのだと勘違いしたらしく、血を舐めとるかのように口に指を含まれてしまった。
その姿をみている私は金魚のように口をぱくぱくさせている。
アホ顔を晒していると、私の視線に気づいたのか「…心配させるな」と、強く腕を引かれ抱きしめられた。


「…アスプロス?」

「もう、昔のようにリリアを守れない俺じゃないんだ」

「…もう、気にしてないよ。だから、私のことちゃんと見てよ」


力強く抱きしめられているけれど、声は震えている。
アスプロスがデフテロスを逃がすために聖域を出るための手助けをした私は、厳罰な処罰を下された。少しだの間だけれど、両親から自宅謹慎を言い渡され、アスプロスとデフテロスに会うことも禁じられてしまった。
ただ、アスプロスが双子座聖衣を受け継いだら会ってもいいと言われた。
だから、私は双児宮付きの女官に仕官したのだ。


「私ね。ずっと、アスプロスに会いたかったの。だから、久しぶりに会えて嬉しかったのに冷たいのは嫌。だって、昔からずっと好きだったんだもの」

「ずっと、見ていた。はやく、リリアに会えるように努力していたのだからな。それだけ、言えばわかるだろ」

「言わなきゃわからないよ。ただでさえ、ここに来てからずっと冷たかったんだもん」

「それについては悪かっと思っている。あまりにも見違えていたから、つい」

「まあ、今日は許してあげる。これかも、そばにいさせてね、アスプロス様」


そっと、額にキスを落としてみたら驚いたようで腕の力が弱まった。
それと同時に腕から抜け出し、破片の片付けを再開する。
数分してから怪我をした私を心配するかのように、その場から離すように横抱きにされてしまった。
案外、アスプロスは過保護など知った瞬間だ。


20151011

 
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