「気づきましたか?」目が覚めて最初に聞いた声は沙織お嬢様のものだった。
あの命令でサガを仕留めようとした酒呑童子と玉藻御前は、見知らぬ侵入者の青年と老人が呪符を掛けて重傷を負わせたと聞かされた。
茨木童子と道満の仕業か。そう思うと気分が悪いけれど、さっきの私は冷静さに欠けていた。
一般人に式で攻撃しようとしたことが倉橋局長にでもバレたら私は確実に謹慎処分を受けるだろう。
「先ほどの話ですがサガは関係ありません。そして、サガの気持ちに偽りはありません」
「そうですか。…ですが、私はあのようなことをしてしまいました。謝罪の言葉を述べようにも、会う資格を持ち得ていません」
「そんなことはない。美弥が会いたいと思えば私はいつでも駆けつける」
部屋には沙織お嬢様と私しかないと思っていたら、入口控えているサガがいた。
何で、こんな場所にいるんだろう。私はあなたを殺そうとしたのに、それなのに私のために駆けつける、そんな戯言はやめて。
「あなたは優しすぎる。そのうち悪い女に騙されますよ」
「君のような女性に騙されるならいい」
「美弥さん、サガはあなたのことを本当に大事にしたいと思っているみたいです。ですが、これ以上私が踏み込めない話なのでおふたりで話し合ってください」
沙織お嬢様はそう言いながら退室していったが部屋の外からは殺気が感じられる。
抑えているのだと思うけれど、私には前科があるからかその殺気は凄まじいものだ。
それでも、サガだけは違う。悲しそうな顔をしながら私のそばに来る。
「私の気持ちは変わらない。それに、美弥のように強がる女性は私の庇護欲を駆り立てるくらいだ」
「ねえ、言ってること恥ずかしくない?」
「これくらい普通だとカノンは言っていたが違うのか」
ああ、カノンさんに騙されたんだ。何だかすべてに対して疑うってことをしなそうな人だものね。
そう思うと、サガが言っていること全てに嘘なんてないんだ。
「ふふふっ、サガって素直なのね。そんなところ、私は好きだよ」
「では!!」
「でも、私はあたなを知らない。もっと私にあなたの魅力を教えて」
一瞬、落胆したようだけれど私の言葉を聞いてかすぐに嬉しそうな顔をする。
大人な雰囲気を纏っているサガからは想像しがたい姿に少しびっくりしてしまうが、過ごした分だけ新たな彼の一面を見つけることができるから、何だか楽しい。
これでは、私はまるでサガに恋をしているみたいだ。
この事実はまだ私の中だけに秘める。
そう考えていると、そっと額にキスをされた。
20150819
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