君が笑う私も笑う世界の歌
時雨ちゃんや小百合ちゃんに声を掛けている姿を典人様の後ろから見ている私はいまどんな顔をしているのだろうか。
醜く歪んだ顔をしているのかそれとも笑っているのか無表情でいるのか気になる。
五士家の従者としてこんな感情を持ってはいけないとわかっているつもりだったけれど、年々魅力的になる典人様のそばにいるのが辛くなっている。
一瀬中佐が来るまでの間、ずっと口説くような態度ばかりとっている典人様を見つつ任務の資料を読んでいると、十条様に「まったく、恥ずかしくないんですかね?」と声を掛けられる。
「あれですよ」と言われて目線の先を見れば典人様がまだ口説いているらしく小百合ちゃんが冷たい視線を向けている。
「あれはあれで、元気な証拠ですから…いいと思います」
「やはり、紫音さんも五士には甘いです」
十条様に言われてしまえば認めなくてはいけない。けれど、私自身典人様に甘いという自覚はある。
そのため、曖昧に笑うしかなかった。
「紫音―、小百合ちゃんと時雨ちゃんに振られた。慰めてくれ」
「はは、そんな軟派な態度ですからですよ」
「まったく、恥ずかしくないのですか」
「紫音と美十ちゃんが厳しすぎるんだよ。でも、俺には紫音がいるからな」
「なっ、そんなこと言われまして困ります」
「…参ったな」
困ったように目尻を下げる典人様がまるで子犬のようで可愛いと思ってしまった。
こんなこと、思ってはいけないのにと邪心を振り切るように首を左右にブンブンと振ると横に居た十条様から変なものを見るかのような視線を送られているのを感じる。
振りすぎたせいか、三半規管がおかしくなってきて気持ち悪い。
「おい、紫音大丈夫か」
「うぐ、…はは大丈夫ですよ」
「どこがだよ。少し座って休め」
両肩をガッチリと掴まれ有無を言わせない力で地面に座らされ、今度は逆に私の目尻が下がってしまって、さっきの典人様と逆になってしまった。
困った顔を向ければ、「お前に倒れられても困るんだよ。俺を守ってくれるんだろ」と典人様も困った顔で返してくる。
ちょっと、笑えてきてしまい笑いを堪えなくて吹き出してしまう。
そんな私を横で見ていた十条様が「全く、ふたりは似すぎですよ」と言ってくるものだから、「はっ、どこが似てるんだよ。俺のほうがカッコイイだろ」と典人様が場を和ませるような発言をするけれど、全く和まずに何故かみんな頭を抱えていた。
「典人様はカッコイイですよ。私のヒーローですね」
「まじかー。五士がヒーローとかどうするグレン?」
「あ、んなこと知らねぇよ。まあ、俺のほうがカッコイイけどな」
自分なりの告白をしてみれば、深夜様と一瀬中佐が来てしまい茶化された。
典人様はきょとんとした顔をしながらも、すぐに一瀬中佐の言葉に反応し言い返す。
「グレンじゃ、紫音のヒーローにはなれないね。そうだろ?」
「は、はい。一瀬中佐に私は助けていただいたことはありません」
私の言葉に深夜様はにやにやしながら笑い、それに釣られるかのように典人様も笑っている。
そんな典人様を容赦なく、蹴り飛ばす一瀬中佐。
典人様の笑顔が好き。だから、典人様の生きやすい場を作りたい。
このままこの時間がずっと続けばいいのに。
20150520
Title:空想アリア