唇はいつも口実を探してた


最近、暮人様に何かとお姫様抱っこをされる回数が多いと思う。
スキンシップは大事だと思うけれど、暮人様の負担になっていないかと心配になる。
それに、執務室に連れてこられてからずっと暮人様の膝の上に座らされている。
これって他の方たちに見られたら、私が暮人様の仕事の邪魔をしているように見えるはずだよね。


「あの、暮人様」

「何だ」

「部下の方に見られたら、とてつもなく恥ずかしいのですが下ろしていただけないでしょうか?」

「そのことか。無理だ。屋敷から抜け出してグレンに会いに行くことを許可した覚えはない」

「グレンに会うのに暮人様の許可をいただく必要はないかと思うのですが。それに、可愛い弟の回復祝いにアップルパイ焼いたから持って来ただけです」

「そうか。俺の分はないのか?」


えっ、暮人様の分…。それは、言葉に詰まる。
グレンのことしか考えていなかったと言えば、聞こえはいいかもしれないけれど、そんなことが暮人様の前で通用するはずはない。
どのように言い訳すればいいのかわからずにオロオロしていると、溜息が聞こえる。


「お前のことだから、そうだと思っていたが本当にないとはな」

「申し訳ありません。あっ、でも、大きく作ったのでまだ残っているかもしれません。それでも、深夜様を食べていらっしゃったからなくなっているかもしれません」

「おい、待て。何故、深夜が食べている」

「それは、グレンに会いにいらっしゃったからです」


グレンだけではなく、深夜様で過剰反応している。
さっきまですごい形相をしていた(深夜様談)暮人様とは思えないほど普段と変わらない表情になっている。
それに、私を膝から下ろす気はないようで報告書を読みながら髪を弄んでいる。


「そうか。深夜は集りに来たのか。ならば、斬るしかないか」

「ちょっと、物騒ですよ。私、暮人様が誰か斬るところなんて見たくありませんからね。もしも、深夜様斬ったらもう口は利きません」

「グレンの次は深夜か」

「そうじゃありません。それに、暮人様にはいつもお出ししているじゃないですか」

「そうだな。だが、お前の料理を他の奴が食べること自体が気に入らない。特にグレンと深夜」


暮人様のそばにいると決めた時から、少し横暴なところがあると知っていた。
それさえも、暮人様の魅力と言えば聞こえがいいかもしれない。
でも、私が惹かれた暮人様は冷静ながらも何が大切かを見極める力持ちながらも、決して私のような存在を見放さないでいてくれたことだ。
そんなことを思いながら、チラッと暮人様の方を見れば目が合う。
綺麗な瞳に吸い込まれるかのように見つめていると、突然ノックされ「失礼します」と葵さんが入ってきた。
逃げようとするもの暮人様はそれを許してはくれずに、まだ膝の上という状態。


「えっ、あっ、みみ見ないでください」

「入っていいぞ」



ふたりして反応が違うから葵さんは一瞬だけ困ったような表情をしながらも、暮人様の言葉に従った。
それにしても、本当に恥ずかしい。
淡々と話合われているけれど、本当にこの場から逃げたい。
まるで、膝の上に乗せた猫を逃すまいとしっかりと片腕でホールドされている。
話は終わったようで「…以上です。では、失礼します」と挨拶をして葵さんは退室していった。
葵さんが出て行った方向を見つめていたら、暮人様が耳元で囁くものだから身体が熱くなる。


「そんなに、煽るな」

「もう、暮人様なんて知りません」

「そう言うな。カレン、顔を見せろ」

「嫌です。意地悪な暮人様の顔は見たくありません」


顔を見せないように頑張って俯いてみるけれど、クイッと顎を持ち上げられてしまったので嫌でも見なくてはいけなくなってしまった。
抵抗のため、目をつぶれば何を勘違いしたのか「いい心掛けだ」と言いながら唇を塞がれた。


20150508
Title:寡黙
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