そんなきみを愛せないわけがない


新宿に吸血鬼が攻めてきたらしい。
暮人様から後から聞かされたため、私はその事実をいままで知らなかった。
グレンが酷い傷を負ったことさえも、私には秘密にされていた。
どうして、いつも大事なことは教えてくれないのか。
少しだけ不満に思いながらも私は暮人様には逆らうことは出来ない。
逆らってしまったら、後が怖い。それでも、愛している人のこと知らないだけではなく弟のことまで教えくれないのは流石に悔しい。


「何で、グレンが怪我したことを黙っていたんですか」

「そのことか。鬼呪装備があるから大丈夫だ」

「そういう事ではなくて、私とグレンはたったひとりの家族なんですよ。それなのに、暮人様は黙っていて、酷いです」


泣きそうになりながらも、涙を堪えて抗議を続ける。
25になってまで泣き虫ではグレンに笑われる。それに、あの子の前では強くあろうと決めたのだから。
だから、暮人様に斬られた時だって少しだけ強がった。
暮人様がお優しい方だってことはわかっていたけれど、本当にあの時は怖かったのだ。


「それにしても、カレンはグレンに肩入れしすぎだ」

「グレンが死んじゃったらって思うと、怖いんです」

「あいつは、死ぬような奴じゃない」

「そうでしょうか?それに、暮人様も私を置いて逝きませんよね?」

「当たり前だろ」


その言葉を聞けただけでも、すごく安心してしまう。
でも、今回は怒っているんですからねって、アピールしたいのに泣いてしまいそうだ。
本当に涙腺弱すぎて、何で私みたいな弱虫が生きているのかわからなくなってしまう。
帝鬼軍に入っているわけでもないのに、何で私は暮人様のそばにいることを許されているんだろう。
それは、ずっと高校時代から不思議に思っていたことだ。


「それにしても、泣き虫なのは昔から治らないな。そんなお前だからこそそばに置きたいと思ったんだがな」

「えっ、くく暮人様。ななな何をおしゃっているんですか。本当に恥ずかしいじゃないですか」

「カレンは顔に出やすいから、それを述べたまでだ。だから、不安がるな。俺の心の安定にはお前が必要なんだ」


告白紛いなことで、惑わされるほど私も子どもじゃないと思いながらも、暮人様を見ようとするけれど、やっぱり恥ずかしくて見ることが出来ない。
そんな私に気づいてか、機嫌のよさそうな笑いを零しながらそっと引き寄せるあたりが暮人様のズルいところだ。
私がどれほど暮人様を尊敬し愛しているかを知っていてやっているんだから。


「騙されませんからね」

「何の事だろうな」

「絶対に、今日は嫌ですよ」

「俺はまだ何も言っていないが、何か期待することでもあったのか」

「はっ、えっ、そんな…暮人様はズルいです」

「どのようにズルいのか教えてもらおう」


抱きしめる力が少しだけ強くなるのが感じられる。
心臓の音が聞こえそうで恥ずかしい。それだけじゃなくても、恥ずかしいのに。
これでは、暮人様にいいように弄ばれているだけだ。
黙っていれば、離してくれると思ったら逆効果だったらしくお姫様抱っこをされながら寝室まで連れて行かれてしまった。
暮人様の匂いに包まれる時間だ。


2015506
Title:寡黙
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