ただひたすらに見上げただけの物語


※グレン視点


「私は弱いから権力にも屈するよ」と、言いながらあいつは暮人のそばにいることを選んだ。
俺よりも2年早く渋谷第一高校に入学した姉は、柊の分家としての立場に戻ろうとした。
それが正しいのかは、俺にはわからなかったが姉は弱い。
俺以上に弱い存在だ。だからかもしれない、柊に屈すると決めたのは。
それなのに、暮人はあいつを…柊に従順な姉を斬った。


「グレン、お前なんのつもりだ」

「はっ、よく言うよな。自分の恋人でもある女を瀕死にまで追い込むとは。さすが柊様。一瀬がそんなに気に食わないか」

「カレンなら、いまは話せる状態まで回復している」

「何故、姉を斬った」

「それを聞くか?お前自身がわかっていることだろ。真昼を殺していれば、お前の姉は傷つかずに済んだ。ただ、それだけだ」


俺が真昼を殺さなければ、大事な人を殺す。
それは、親父以外も例外だった。はじめに姉が暮人に斬られた。
それも俺の目の前でだ。察しのいい人だったから、何をされるのかはわかっていたようだが、それでも柊に従順な姉は本当に弱い存在だった。
斬られる前にまで「お慕いしています」なんて、言いやがる。
そんな姉は真昼が言わないようなことばっかり言う、ふんわりとしている女だと思っていた。
でも、ここまでお人好しだとは思わなかった。
嫌なら嫌だと喚けばいいものさえも喚かない。
俺とは全く違うんだ。


「分家のクズの中でもお前と違ってカレンは強い。だから、俺はあいつを気に入っている」

「んなこと、わかるわけねぇだろ」

「あいつと会って話してみろ」


暮人は俺について来いみたいな態度をして、先を歩く。
それについて行くしかない自分がどれほど惨めだろうか。
姉について理解していないはずがない。暮人よりも長い時間を共に過ごしてきたと言うのに。
連れてこられた場所は姉の病室だった。
呪符で頑丈に守られたその部屋に入るのは緊張しかない。
入れば、嬉しそうな顔をしながら暮人に微笑む姉がいる。
そして、俺の見つけるとまた嬉しそうに「グレン」と、いつもと変わらない声で俺を呼ぶ。
俺に怒りをぶつけてくれてもいいはずなのに、何も言わない姉を弱い存在だと勝手決めつけた自分がバカみたいだ。


「暮人様から聞いたよ。大丈夫、グレンは出来る子だから。だから、私のことは心配しないで。暮人様は私を他の方から守ってくださっているのよ」

「…どういうことだよ」


一瞬、思考が追いつかなかった。
暮人が守る?それが、どう言うことなのかがわからない。
あいつを見たって、話すはずもない。
わからない状態の俺をみると、少し困ったような顔をしながら暮人に耳打ちをする姿がある。
「まあ、いいだろう」と言いながら、了承を出しているところを見るとこれは暮人の掌で転がされていたようだ。


「お父様だけではなく、私にも人質とする命が下っていたの。それで、あなたが真昼様を殺し損なった見せしめに殺されそうだったところを暮人様が急所を外して斬ると前々から仰っていてね。だから、私が生きていては困るために、何重にも呪符で結界を作っていただいているのよ」

「じゃあ、俺のせいなのか…」

「そうじゃないわ。元々、暮人様の恋人なんて私が烏滸がましい位置にいるのが気に食わない方たちの判断だもの。グレンは関係なの。私のことは気にしないで。暮人様がいらっしゃるから」


そう言いながら幸せそうに笑う姉に本当の暮人の姿を見せたいくらいだ。
きっと、手加減なんてしない。そういう男なのに、姉の前では手加減をする。
それは恋をしているからかもしれない。
真昼と俺とは違う恋をしている。
真昼を救えない俺と、暮人の場所として存在する姉。
最初から比べることなんて、出来なかったんだ。

姉には暮人が必要なように暮人にも姉が必要なのだ。
そう気づいてしまえば、俺の出る幕はない。
寄り添うふたりをみて、そっと病室から抜け出る。
本来の俺の居場所へと。



20150505
Title:寡黙
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -