それは美しい引き金


たまたま、たまたま目に入っただけだと言い聞かせるが抱きしめたい衝動にかられ放送を使い彼女を呼び出す。
グレンと一緒にいることが気に入らないわけではないが、余りにも可愛らしい笑顔をしているものだから、閉じ込めてしまいたいとも思ってしまう。
己がそんな感情に支配されてしまうとは、思ってもみなかった。
柊の当主候補として必要のない感情はすべて切り捨てようとも考えた。
だが、カレンに出会って変わったと言っても過言ではないな。


「暮人様、放送使わないでくださいって何回頼めばいいのですか。今日は、グレンと一緒にいられたのに」

「グレンとならいつも会っているだろう」

「そんなことは、ないですよ。暮人様に会うより会ってないです」


頬を膨らませるのではないかという、勢いで拗ねるあたりが同年代とは思えない。
それに、柊に仕える家柄の者たちでも俺の側近には選ばれるような人柄ではないと重々承知している。
だから、見ていて愛おしく感じるのかもしれないな。


「今日の暮人様は少しおかしいです。熱でもあるのですか?」


そっと、伸びてくる手を払うわけでもなくそのまま受け入れようとするが、身長差からか背伸びをしても届きはしない。
必死に背伸びをしているからか、少しバランスを崩しかけている。
その姿は愛おしくも感じられる。


「…少しくらい屈んでくださってもいいじゃないですか。暮人様の意地悪」

「それでは、カレンの可愛い姿が見れないだろ」

「そ、そそんなこと思っていたのですか!!」

「仕方ないが、これは終いだ」


倒れ込んできたカレンを抱きとめると、腕の中でジタバタしている。
大人しくならないあたりが、まるでじゃじゃ馬のようだ。
だが、そんなところが気にいている。


「また、葵さんが来たらどうするんですか…!!」

「葵は扉前に控えているから気にするな」

「また、そうやって職権濫用して」


大人しくしはじめたカレンは、胸に蹲ってしまう。
顔が見れないことが、不満だが愛おしい感情に支配されていては文句を言うつもりはない。
恥ずかしがる姿を可愛いとでも言ってしまえば、逃げることが目にみえている。
それに、あいつ自身が俺に愛されている自覚をするべきでもある。
ただ、暇で構うわけではない。柊からすれば、一瀬など取るに足らない存在だからだ。
利用価値がないことなど最初からわかっていた。
ただ、愛しているからそばに置く。それに、カレン自身で気づく必要がる。


「これ以上、俺に愛される覚悟がるならその口を閉じることだな…カレン」


それ以上、言葉を紡ぐことのないように唇を塞ぐために顎を持ち上げれば濡れた瞳で見上げてくる。
これほど、無防備な女もいないな。何年経っても変わることのないカレンだからこそ飽きはしない。
俺だけを知っていればいい。そう思いながら、何度も角度を変えながら唇を塞ぐ。


20151006
Title:寡黙
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