秘密の共有未遂


「あれ、シノアちゃん」

「カレンさんではありませんか。今日は暮人兄さんと一緒じゃないんですか?」

「いつも一緒にいるわけじゃありませんよ」


柊ではあまり会わないけれど、外ではよくシノアちゃんには会う。柊家に居場所がないと言うけれど、私からすれば柊家の人たちはお互いのことを兄弟と思うよりも当主の座を争う者としか認識していな節がある。
暮人様と真昼ちゃんが当主候補として争っていたとき、万が一のために訓練されていたのがシノアちゃんだ。
幼い時から知っている分に、自分の妹みたいで仲良くなれたらと常に思っているが、なかなか懐いてくれない。


「それにしても、カレンさんは逃げ出したくならないんですか?」

「何に対して?」

「暮人兄さんからですよ。だって、あんなバケモノですよ」

「バケモノって、暮人様は素敵な紳士ですよ。そんなこと言ったら、シノアちゃんこそグレンみたいなバカが上司で嫌じゃないの?」


驚いた顔をしながらも「中佐はいいんですよ。あのままで」なんて言うから、真昼様のことを思って言っているのかと推測してしまう。
聞けば絶対に否定はされる。あまり本心から話すような子ではないと思う。
それでも、昔に比べれば表情が少し豊かになった気がする。


「そういえば、小隊長になったらしいですね」

「そうなんですよ。中佐がどうしてもと、頼むものですから」

「そうなの。シノアちゃん、強いものね」

「いえ、カレンさんほどではありません。それに、私の場合は姉とどうしても比べてしまうんですよ」


この話題は禁句なのかもしれない。無理して作り笑いをする姿を見ているのが痛々しい。
きっと、作り笑いをすることに慣れてしまったんだ。
無性に抱きしめたくなって、シノアちゃんの了解も取らずに抱きしめる。


「あっ、ええ、カレンさん?」

「このままでいさせて。少しの間、シノアちゃんを抱きしめたいの」

「はい」


シノアちゃんにも聞こえているかな。私の鼓動が。
いつも、暮人様の鼓動を聞いて安心する自分がいる。
だから、シノアちゃんにも安心感を覚えて欲しい。
7歳のあの時から構ってくれるのはグレンだけ。そんな寂しい思いをしているシノアちゃんの帰ってくる場所をつくりたい。
私は傲慢だと言われるかもしれない。でも、傲慢であり続けることでシノアちゃんのそばにいられるならそれでいい。


「暮人兄さんはいつもカレンさんの温もりを独り占めしているんですね」

「そうですね。でも、いまはシノアちゃんのもの」

「何だか、嬉しいです。いまだけは、カレンさんが私のものだなんて。暮人兄さんに深夜兄さん、それに中佐が知ったら羨ましがりますね」

「そうかしら?」

「そうですよ。今にも私に斬りかかってきそうな殺気を放っている暮人兄さんが窓から見下ろしていますよ」


あはっと、指を指す方向を見ると暮人様の姿が確認できた。
私の前では無表情ではないから、無表情な暮人様を見るとちょっぴり怖い気がする。
シノアちゃんは「ああ、バレちゃいましたね。シノアちゃんピーンチ」なんて言いながら離れて行くから、もう少し強く抱きしめていれば逃げられなかったかな?なんて、考えてみる。
ひとりであんな暮人様を見るのは怖いから誰かと一緒ならと考えてしまう私は幼いのかもしれない。
離れていったシノアちゃんは「呼び出される前に逃げます。ではカレンさん、また会いましょう」と逃げる姿は年相応だと思う。
見えなくなるまで手を降り続け、見えなくなれば暮人様がいるであろう場所をみれば満足そうな顔をしている。
何だか暮人様も子どもっぽいと思いながらも、柊の屋敷へ帰る。



20150719
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