世界がそうして回るのならば


暮人様の自室の前で、飛び込んでいくか迷う。
でも、そんなはしたないことは…と考えて、結局控えめなノックをすれば「誰だ」と確認されるが、名前を言えば入ることを許可された。


「どうかしたか?」

「いえ、プレゼントのお礼を言いたくてですね」

「こっちにおいで」


手招く姿がまた様になっていて、顔に熱が集中する。
さっきまで、本を読んでいたようでソファー近くのテーブルに栞を挟んで置く姿をみると、邪魔してしまったようで申し訳なくなったため、少し離れて座ろうとすると「何故、離れて座る」と言われてしまう。
本当のことを言えば、鼻で笑われるだろう。だから、言わない。


「あのプレゼントありがとうございます。ただ、少し恥ずかしくて」

「そんなことか。うむ、似合っているな」


会話が続かない時間も込でいつもはふたりでいる時間が好きだけれど、今日は何だかはやく逃げ出したい。
意地悪な暮人様のことだから、きっと私が逃げ出したいことに気づいているだろう。
だって、私の横髪をそっと触りながら耳にかける仕草がとても色気を放っていてただただ見惚れてしまい吐息が耳に掛かる。
きっと、暮人様は策士なんだ。帝鬼軍中将をしているくらいだからこれくらいは簡単なことなんだろう。
その前に、学生時代はモテたからきっと女馴れはしている。
暮人様しかしらない私はひとつひとつの行動にドキドキしっぱなしだから何だかズルい。


「何を拗ねている?」

「拗ねてなんかいませんよ。ただ、暮人様のひとつひとつの仕草にドキドキしているのが私だけだというのが何だか腑に落ちなくてですね」

「それを拗ねていると言うんだよ。それに、俺もカレンの行動には心が休まらないよ」

「心の安定とか言って、本当はそんなこと思っていたんですね。酷い」


笑っている暮人様は素敵で、それさえも私はドキドキする。
やっぱり、私は一生暮人様には勝てないんだろうな。だって、こんなに好きなんだもの。


「いや、心の安定は本当のことだよ。それに、表情が変わってカレンはおもしろい」

「もう、やっぱり暮人様は意地悪です」

「意地悪されるのは嫌か?」


そんな質問に答えられるはずもなく顔がサラに赤くなる。
きっと、わかっているのだろう。そうでもなければ、こんな質問はしてくるはずがない。
声が小さくないながら「嫌です」と答えれば「聞こえないな」なんて、聞こえているはずの答えを要求してくる。


「嫌です。意地悪してくる暮人様はあまり好きではありません」

「中々、言うようになったな。昔は反抗することもなかったのに。まるでビクビク震えているチワワのようだな」

「チワワって。いまでも、暮人様は私のことは愛玩動物くらいにしか思っていないんですよ」

「自分でそれを言うか。まあ、間違ってはいない」

「独占欲強い人って嫌われるんですよ。知っていましたか?」

「それは知らなかったな。だか、世界が崩壊してからそんなことが言えるか」


世界が崩壊する前なら、独占欲が強い人は嫌われたのかもしれない。でも、こんな世界じゃ独占欲が強い人のほうが安心出来るのかもしれない。
それでも、暮人様に限っては崩壊前でも崩壊後でも関係ない。
誰もが羨む柊家次期当主候補。女の人や周りの大人たちが黙っていなかった。
ひょっこりと渋谷第一校に現れた一瀬の私をそばに置くときは「気が触れたのか」と、まで言われていたけれど古い因習になんて興味はないらしく周りの言葉をずっと無視していた。
そんな暮人様のそばにいることが幸せなのか不幸なのかはわからないまま、ずるずると関係が長引いてから気づいたのは、私が暮人様に恋をしているということ。
どんなことがあっても、私のそばにいてくれる暮人様は家族と違った安心感を与えてくれた。
これがどれほど私を救ってくれたのだろうか。


「やっぱり、独占欲が強くても暮人様以外はいりません」

「そうか。なら、大人しく俺に抱かれていろ」


そっと額に落とされた口づけに大人しく頷く。
上機嫌な暮人様を見れば、優しい瞳をしていた。


20150619
Title:寡黙
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