主命が欲しい
畑当番から帰ってきた長谷部が、すごく仕事を欲しそうに見てくる。
そんな、視線を無視しながらおやつのお煎餅を食べながら、短刀たちが遊んでいるのを眺める。
じーっと見つめられると、何だか恥ずかしいけど、長谷部は働きすぎだ。
だから、そんな視線には負けない。
「莉玖様、なぜ仕事を与えてくださらないのですか」
「さっきまで、畑当番してたじゃん」
「それは、先程終わりました」
「んー、じゃあ。お風呂洗いして、そのまま綺麗になってきてよ」
「浴室掃除は了承しました。ですが、莉玖様より先に湯を戴くわけにはいきません」
でたよ。長谷部の忠誠心。
別に一番風呂とか好きじゃないか、無理に私に譲ろうしなくてもいいのに。
それに、ゆっくり入りたいからあとの方がいいのにな。
そんなことを、思いながら長谷部を説得するか!と、立ち上がる。
「んー、ほら私疲れてるからゆっくり入りたいんだよね。だから、誰も後ろにいない一番最後がいいんだ。長谷部ならわかってくれるよね?」
「…ですが」
歯切れの悪い返事が返ってくる。
想定はしていたが、こんなにまでも忠誠心を表してくるのは嬉しいんだけどね。
忠犬ハチ公ならぬ、忠犬長谷部のようだ。
「じゃあ、長谷部。これは命令。お風呂掃除と一番の風呂は長谷部の今日の仕事!わかった?」
「主命とあらば」
渋々といった感じで風呂場に向かう長谷部の背中を見ながら、「お疲れ様」とお辞儀をする。
きっと、長谷部は気づいているんだろうな。
なんたって、気配に気づけないほどダメな子じゃないし。
そう思いながら、お煎餅に手を伸ばす。
20150411