小説 | ナノ
惑わす

「ねぇ、江雪は戦が嫌い」
衣服を着崩したまま布団から起き上がる主に問われる。
燭台切が見たら、呆れながら怒るのだろうが、今日は遠征に朝早くから向かわされている。
そのためか主の世話役に必然的になった。
最近の主は私のことを気に入っているらしく、そばに置きたがる。
そんな主の考え方は、いつもわからない。


「黙ってないで、喋ってよ。つまんないじゃない。それとも、私と一緒に寝る?」

「また、寝るのですか?」

「んー、今日は口うるさいのもいないから、寝ようかなって。起きててもつまんないし。それとも、江雪が遊んでくれるの?」

「私は…、主を満足させることなど出来ません」

「そう、暗く考えないでよ。喋ってくれるだけでいいよ。私と話すのは嫌?」

「そんなことはありません」


いつも、突然何かを考え出しては、私を振り回す主には少なからず世話を焼くことに対しては、弟たちを見ているようで、嫌ではない。
いまも、戦いが嫌いな私を戦場に赴かせることはない。
そう思うと、主は私のことを考えてくれているだろう。


「なら、いいよ。ねぇ、江雪はいつになったら私のことを名前で呼んでくれるの?私の名前知らないとかじゃないよね?」

「把握はしています。ですが、主の名前を軽々しく呼ぶなど出来ません」

「昔と違うんだよ。本名を知られて呪われるとかされても、死にはしないよ。だから、私は名前を呼ばれたいの。莉玖って、呼んでよ」


ただ、主を見ているだけの私に飽きたのか起き上がり、後ろに回ってくる。
振り向こうとすれば、後ろから抱き締められるようにされ「だーめ、振り向くなんてつまんないことしないで」と、言われてしまえば、振り向くことはできない。
ただ、抱き締められるだけなら未だしも、主は匂いを嗅ぐかのように、髪に蹲る。
そんな、主に少なからず胸が高鳴る。


「主、…私は…」

「名前。名前、呼んでくれたらやめてあげる」


そんなことをい言いながら、これ以上何をしようというのか。
考える暇もなく主は、首筋に吸い付く。
されるがままの状態になっていることは、間違いない。
チクリとする痛みでさえ、戦場の痛みと比べれば痛くはない。
逆に愛おしいくらいの痛みだ。


「主、何を…」

「はやく、名前で呼んでくれないと首筋以外も真っ赤になるよ」


呼ぶことはないと思っていた名前を呟くように、そっと言えば主は満足そうな顔をした。
莉玖と呼べばやめると言った行為は、そのまま続けられる。
まるで弟に印を刻んだ信長のように。


20150328



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