小説 | ナノ
弄ばれる

「今日も平和だね」、なんて言葉がよく言えたものだと自分でも思う。
さっきまで、「何で私の元に小狐丸は現れないの!!油揚げがないから?」なんて、叫びに叫びまくっていた私を「元気だな」と眺めながらも「いつか、俺が来たように奴も来るはずさ」と、慰めてくれてからのお茶会。
横でずっと、にこにこしている三日月さんは本当に感じのいい好青年にしかみえない。
じじいと言いながらもやっぱり身体つきは若い。


「ん、なんだ。そんなに、俺をみても小狐丸は来ないぞ」

「わかってるよ。ただ、三日月さん美青年だなと思って」

「ハハっ、こんなじじいを美青年とは」

「いやいや、中身じゃなくて見た目だから」


笑っている姿でさえ、素敵な三日月さんだけれど、この刀は何せ天然なタラシだ。
長く生きているからか、自然と女性の喜ぶ言葉をくれる。そして、妙に慰め方がうまい。
お茶をすすりながら、燭台切さんがくれたお茶請けのおせんべいを食べながら、また三日月さんを眺める。
ぼりぼりと食べているから、粉が服に落ちて仕方ない。立ち上がる時にでも、払えばいいかなと思っていると、不思議そうに三日月さんに見られるから、何事かと思った。


「さっきまでが、嘘のように幸せそうな顔をしているな」

「ああ、だって食べてる時って幸せ感じない?」

「うむ、俺はあまりそのように思ったことはないな。だが、莉玖の隣にいるのはいいものだ」

「はっ、えっ、なな何言ってんの!!このじじい」

「照れるな、照れるな」


照れるというよりも、男性に対しての免疫がないから恥ずかしくなってしまう。
これなら、彼氏とか作っていればよかったな。付喪神として現れてくる刀剣たちは、みんな男性ばっかりなんだもの。


「何か考えているのか?」

「うーん、彼氏作ればよかったかなってね」

「…彼氏とは、如何様なものなんだ?」

「ああ、好いた人のことだよ」

「そうか。…彼氏なるものがいたなら、こんな可愛い反応も出来んだろうに。俺だけが莉玖の可愛い姿を見れればいい」


声を出すこともできずに、固まってしまった。
サラッと言ってくるこのじじい。もう、この場から消えてしまいたい。
逃げようにも、じじいに腕を掴まれてしまっているため無理だ。
ぐいっと引き寄せられ、支えを失った身体はじじいの胸の中にダイブしてしまった。


「なかなか、莉玖も積極的だな」

「…おまえがやってんでしょ!!この策士が」

「何のことだか」


知らないふりをするこの三日月宗近にはかなわない。
こんな、男性の胸にダイブしたことなんてないから恥ずかしくてしかたがない。
暴れてみたが、逃げることもできないため大人しくすることにした。
そうすれば、満足そうなじじいの声が聞こえる。


20150322



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