小説 | ナノ
月見酒

次郎太刀が来てから、今まで控えていた酒をよく飲むようになった。
短剣たちの前では飲むのはよくないと、勝手に思っていたからだ。
自分の年齢よりも倍を生きている彼らにとって、酒というものは水に近いものになっているんじゃないかと思う半面、外見的にも未成年に見えてしまうから法的にもなんだからいけないような気がして飲むことは出来なかった。


「ねえ、莉玖」

「ん、どうした?」

「月見酒なんて乙なものをあたしと飲もうなんて奇特なことを考えるなと、思ってね」

「はは、月見酒は静かに飲むものだろ。騒ぎたいなら宴会を開けばいい。それに、たまには次郎ともサシで飲みたいと思ってね。いつもは、光忠に長谷部もいるから。たまには、いいでしょ」

「そっか、莉玖がそんな風に思ってくれて、あたしは嬉しいよ」


嬉しそうに酒を飲む次郎を見ているとこっちまで嬉しくなる。
今日は、大太刀や太刀たちを遠征に向かわせ、打刀たちには短剣の面倒を見るように指示しているから、邪魔が入ることはない。
次郎がいつもより大人しく飲んでいることが不思議と嫌ではないと思った。
こんな風に飲むことが出来るのだと、新たな一面を発見したみたいでおもしろい。


「何、笑ってんの」

「いや、次郎も大人しく酒を飲むことが出来るんだと思うとおもしろくて」

「莉玖は、あたしのことを見くびってるね。静かに飲むくらいあたしにだって出来るよ」


少し頬を膨らませながら、見てくる姿は正直かわいいと言えるものじゃない。
その姿を見て、また笑いが込み上がる。
そんな私の姿を見ながら、少し困った顔をしながらも継ぎ足す次郎が、またおもしろい。


「こんなにも、莉玖が笑い上戸だとは思わなかったよ」

「そもそも、私は酔ってない」

「酔っぱらいが言う台詞だよ」

「自由に思ってくれればいい、ハハハ」

「だから、その台詞がね…って、もう聞いてないからいい」


諦めたのか、静かになった次郎を見ながら「華がある月見酒はいいよ」と言えば、ぽかーんとされた。
自分が男っぽい部分があるからかもしれないが、次郎のように髪を下ろしている美男子がそばにいるのは、なかなか月と絵になる。
そう思えば、今夜の酒は美味しい。
きっと、次郎には私の考えはわからないだろう。



20150313



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