ある意味愛の光景
「マルシベールは何で服従の呪文が得意なの?」
本を読んでいれば、いきなり隣にいた女――ジェミニーにそんなことを聞かれた。
唐突な話題に、こいつはバカかと思った。あの方の力になりたいと思えば、それくらいできないでどうするんだ。
「お前、バカだな」
「な、なな何でーっ!!私はどうしても服従の呪文は苦手なんだよ」
どもっている時点で、あの方のそばにいるのが望ましくはない。いや、消えてしまえばいい。
それに、どうして服従の呪文が苦手なのかがわからない。
あんなにも、誰かを支配することに快楽を覚えることのできる呪文は他にはないと言うのにだ。
それに、答えは簡単だ。
「ああ、ジェミニーはいつも誰かの下僕でいるからな」
「げ、げげげ下僕とは失礼な!!私の主はあの方だけだよ!!だから、他の人の下僕になった覚えはない!!」
高らかに変な宣言をしているが、哀れみの目で見るしかないのか。
やっぱり、こいつはあの方の下僕よりも、それ以下の誰かの下僕の方がお似合いだな。
「うるさい。ジェミニーって、いつも気づかないよな」
「何がーっ!!」
なにも、気づかないでバカみたいにキャンキャン騒ぐ。まるで犬だ。駄犬だ。
これじゃあ、あの血を裏切ったシリウス・ブラックみたいじゃないか。
「ルシウスやべラトリクスにいいように使われるじゃないか」
「ルシウスさんはお菓子くれるし、べラはいろいろと闇の呪文を教えてくれるんだよ!!いいでしょ!!マルシベールにはあげないからね」
「いらないよ。だから、ルシウスについては完全にいいように扱われているよな」
「ルシウスさんは学生のときからいい人だったよ!!フェミニストだよ!!マルシベールはいつもハーレムだったよね」
何も知らないで、いつも目で見ていたわけではなかった。
学生時代から目立つような人間ではなかったのは確かだ。
普通という言葉が1番当てはまるような女だった。
それなのに、いつも周りには誰かがいるのが当たり前。
そんな彼女が僕のことを認知していたなんてな。
僕はどちらかと言えば、あいつとは対照的だったはず。
「うるさい。好きであんな女たちに囲まれていたわけじゃないんだから・・・気づけよ」
「ん、何がー?」
「お前の近くはいつもルシウスかレギュラスばっかりがいて近づけなかったんだよ。バカが」
「そ、そそそれってマルシベールさん!!」
「・・・うるさい」
キャンキャンいうあいつに近づけなかったのは、僕に勇気がなかったからなのか。
それとも、ジェミニーが僕から遠回りするように避けていたからなのか。
全くもってわからない。
「私だって、マルシベールの周りに女の子いなかったら、近くにいって話したかったよ」
こんなバカと話すことなんて、学生時代にあったのだろうかと、考えを巡らせてみるけれどないな。
だけれど、あの頃は話したいと思ったのも事実だ。
いま、こうして話している時点で僕は満足している。
「マルシベール、結婚を前提にお付き合いしてください」
「黙れ。その口塞ぐよ」
こんなやつをそばに置くのも悪くないと思っている僕は、もう末期なのかもしれない。
学生時代から募らせた想いが。
20140122
Title:空想アリア