甘い恋の憧れ



大好きな家族が結婚することはとても嬉しいことで、その反面、私から大好きなお姉さまを奪う行為だと思った。
そして、またお姉さまの結婚相手が私の好きな人だと聞いたときには泣いてしまった。
末っ子で甘やかされて育ったせいか、ずっとワガママを言ってもお姉さまたちは「しょうがないわね」とか言いながら、私のことを優先してくれた。
でも、今回だけはそういうこともできない。
だって、好きな人は大好きなお姉さまと結婚してしまって、私のことは可愛い妹としてしか見てくれないから。
最初からそうだった。
ベラ姉さまはとても綺麗でブラック家の誇りでもあって、そんなお姉さまに惹かれたロドルファスさんが結婚を申し込んだとか。そんなことを知っていて、私のことなんてパーティーで会ってもベラ姉さまの妹としか見てもらったことはない。


「ベラ姉さまが結婚するんだって」

「そっか。兄貴もいい女見つけたと思ったら、そうだったんだな」


談話室でこれから親戚関係になるレストレンジ家の次男ラバスタンは、興味なさそうに相槌をうってくる。
いつも、談話室で丸まっている私のことを猫だとか言いながらからかってくる度に、ルシウスさんやシシー姉さまに怒られている。
でも、今日は猫とか言ってこないし、ただ優しく接してくれる。


「おい、なんで泣きそうな顔してるんだよ」

「だって、だってだよ。ベラ姉さまとロドルファスさん結婚するんだよ」

「ああ、知ってる。だからって、泣くことないだろ」

「だって、わたし…ひく……ロドルファスさんのことす・・だったんだよ」


しゃくしあげながら、言うと驚いたような顔をして私を見る。
そんなに、私が泣くのが珍しいかと思っていたけど、ラバスタンの前で泣くことなんか、いつものことだから、きっと違うんだろう。


「それに、こんなに・・・胸が苦しいなんて・・・ひっ」


前に座っていたはずのラバスタンが私の隣に移動してきた。
そして、シシー姉さまがしてくれるように優しく私の頭を撫でる。
こんなこと、いままで一度もされたことがないから私もびっくりして涙が止まりそうになった。


「だったら、俺が忘れさせてやるよ」

「・・・へ?」


きっと、間抜けみたいな声がでてしまっただろう。
真っ赤な顔をしながらも真剣な眼差しが向けられている。


「ずっと、お前のこと見えていたんだからな。兄貴が好きなのは知ってたけれど、やっぱり諦められなかったんだよ」

「・・・ラバスタン?」

「だから、俺チャンスだと思ったんだよ。兄貴が結婚するって聞いたとき。最低だな」

「最低じゃないよ。ラバスタンはいつも私のこと気にかけてくれたの知ってるよ」

「・・・ジェミニー」

「ごめんなさい、ラバスタン。本当は、ロドルファスさんよりラバスタンのほうが好きだったの。それに、ラバスタン最近彼女できたって聞いたから、それで・・・つい」


泣き止んだかと思った瞳からは、また大きな雫を作り。
それを止めることができずに溢れ出した。


「バカ、嘘だよ。そんなのは。俺はジェミニーしか見えてないから」


そっと、抱きしめてくれるラバスタンのせいで心臓がうるさい。
涙も止まらなくて、ずっと流しっぱなしだ。
いま、とっても幸せなのに。



20131227
Title:HENCE


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