恋愛前線襲来中


「親の七光りって知ってる?」そんな言葉を知らないスリザリン生にいきなり言われた。
きっと、上級生だと思い「まあ、知っていますよ」と答えると彼女は「つまらない男ね」と言ってくる。
何のことだか全くわからないけれど、彼女とはあまり関わらないほうがいいんだろうと本能的にそう思った。
翌日、中庭に入れば「ひとりで寂しくないの?」なんて質問をしてくる。
この人は何なんだと思うが、上級生を邪険にすることはできないから適当に答える。


「Hi,Mrクラウチ」

「どうも」

「つれない返事ね。もう、顔見知り以上でしょ私たち。私のことはジェミニーって呼んで頂戴」


ズガズカと俺のテリトリーに入ってくる人が上級生だと思ったのはマルフォイと一緒にいるのを見たからだった。そんな人が下級生である俺になんの用があるのか不思議でたまらなかった。
それに、最初の交わした会話が「親の七光り」って言葉はどうなんだか。


「私の話聞いてた?」

「ええ、まあ」

「あなたって、その返事しかしないわよね」

「…」

「私との会話って退屈かしら」


退屈というよりも煩い。何故、俺に構うのかよくわからない。
放って置いてくれればいいのに、何でだ。
こんなにも、俺の生活をかき乱すようなことするんだ。


「俺は、父さんの荷物になりたくないんだ。だから、話しかけないでくれ」

「ああ、やっぱりね」


彼女は最初からわかっていたかのように微笑む。
その微笑みは母さんが俺に優しい眼差しを送るようなものではなく、何かを企むような微笑みだった。
それでも、その微笑む姿がとても美しいと感じてしまう。


「あなたって結局、自分の父親が怖いだけでしょ。それに、頑張れば認めてもらえると思ってる」


彼女の言うことは全てあたっている。
それを否定することが出来ない自分が恥ずかしい。
唇を噛むようにすると、彼女はそっと頬に触れてくる。


「ねえ、私があなたを救ってあげようか」

「何、言ってんだよ」

「あなたのこと気にいちゃったのよ。バーテミウス」


ゾクゾクとするような艶かしい彼女に惹かれ始めているのか。
自分の心臓が自分のものではないような感覚に襲われながら彼女の瞳に吸い寄せられる。


「ジェミニーそれってどういうこと」

「ふふふ。女性に言わせるのは紳士としてどうなのかしら」


そう言いながら、彼女は目の前から消える。
それから彼女は近づかなくなり、俺は彼女を目で追うようになった。
きっと、彼女は気づいている。
それなのに、何も言わないのは俺からの言葉を待っているからだろうと自惚れることを許して欲しい。


「ジェミニー、俺のそばにいてくれ」

「やっと、言ってくれたの。喜んで」


廊下で彼女の腕を掴んでした告白は、校内中にすぐに伝わったがそれはどうでもいい。
それに、父さんのことも今はどうでもいい。
ただ、俺を俺として見てくれる人がいれば。


20140216
Title:空想アリア


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