※『6』ネタバレ





"生きること"に何の意味が、あるんだろう。私は真っ暗な牢獄の中で、ドゥルクに拾われ育てられた証の、右手の龍の刻印を眺めていた。"龍は屈せず――"でも、私は力不足だった。明日、私は弁護罪で被告と一緒に死罪にされる。この世にヒーローなんて―――いるんだろうか。いるとしたらドゥルクだけど、ドゥルクは遠い何処かに行ってしまった。和私達のヒーローは、きえてしまったのだ。ただ溜息を吐けば、遠くから足音が近づいてくる。


「…少しはそのド腐れ頭も冷えましたか」


ナユタだった。ナユタは私の獄の前にしゃがみ、かちゃかちゃと音を立てて私の錠を外し―――きい、と開ければ。「お逃げなさい。女王には適当に革命派が逃がしたとでも説明しておきます。さあ、早く。そして二度と都に姿を見せないことです」私は、ぎゅっと唇を噛んだ。ナユタは、ナユタは―――わかっているのだろうか。私は即答する。「嫌」ナユタは数珠を掴み歯噛みする。「…何故!貴女は明日弁護罪で死罪が執行されるのです、わかっておいでか」

「ねえ…ナユタ。始祖さまは全て、見てらっしゃるのかなあ、」私は泣きそうだった。「………?突然、何を、」「始祖さまは何もかもわかってらっしゃって、あなたにこの試練をお与えになるのかなあ、」「おなまえ………」開いた格子の向こうのナユタに抱きつく。ああ、始祖様。何故貴女はこんなにも、ナユタを地獄の業火で炙るのでしょう。こんなにも彼を苦しませて、それでどうしようというのでしょう。私は貴女を信じています。貴女のお導きで全てが救われるものだと。しかし、これでは、


一人になったナユタは、どこへ行けばいいのでしょう。


「…レイファを一人で、守るんでしょう?あの女王から?あの何も知らないお姫様を!我儘いっぱいの、自分が真実を伝えていると思い込んでいる…!」「しかし貴女はそれを破れなかった!」………いいですか、とナユタが私の肩を掴む。「貴女は無力なのです。真実を暴けるほどに強くは無かった――――あきらめなさい」私は愕然とした。私が、弁護士になって。日本に行ってしまったホースケの代わりに。相棒になるんだって、思っていたのに、どうして―――

「……おなまえ。拙僧は貴女を失いたくありません。逃げなさい。はやく」



「嫌」、というのが精いっぱいだった。そこでナユタが無理矢理私のことを掻き抱いてきて、硬い床に押し倒されて。すすり泣きながら私は抱かれたし、ナユタも不思議と、あの、すっかり表情を見せることが無くなったナユタでさえ、涙を流すように、涼しい顔からぽたりと汗を私の頬に落とし、歯ぎしりしてすすり泣く私を睨みつけた。




死刑執行の序文が読まれている中、私が弁護した被告が何やら騒いでいる。「おい!話が違うじゃねえか!俺は王族に雇われたんだ!龍の希望、おなまえ・みょうじを死刑にするために!本当にされるなんて聞いてねえ!聞いてねえんだよ!」私はそれを黙って聞いていた。ああ…ナユタは。わかっていたんだ。だから助けに来てくれたんだ、昨日。でもわたし、これでいいの。私は真実に負けたの。『龍の希望』おなまえはあなたの背を守ることなく、潰えるでしょう。


視界の端で涼しい顔で祈りのポーズを取っているナユタが見えるが、唇は血が滲むほど噛み締められているのがわかる。ああ。ほろりほろり、と私からは涙が零れて。五月蝿い被告の首は落とされて。ああ、次は私か。ナユタ、さよなら、あいして



ねえナユタ。始祖様は、私達のことを、いつお赦しになってくれるのかな?いつこの地獄のような世界から解き放ってくれるのかな?―――――以降、彼の法廷では、どこからともなくクライン蝶が入ってくるようになり、彼もそれを深く愛でるようになった、と黴臭い本に一節が残されている…。



那由多の向こうへ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -