※『犬×犬〜』同一設定



死ぬほど疲れて帰ってきたら最高に疲れる上司が私の席に座って「遅いぞ!みょうじ!」なんて言うもんだから私は思いっきり顔をしかめてしまった。ら、上司は「な、なんだよその顔!そんなに思い切り嫌な顔しなくたっていいだろ!」と涙ぐんだので私は慌てて表情を引っ込め、控えめにため息をつく。「なにしてるんですかこんなとこで」「みょうじの帰りを待ってたんだ!」「何のために?」「…い、一緒に帰るため―いや、俺が帰るまでの護衛―いや、い、一緒にかえるため…?」「言い訳は先に考えといてくださいよ!あと残念ですけど、私はまだ帰れません。やることが山積みなので」上司の不思議な形の癖毛がぴん!と跳ねる。「な!何でだよ!誰がお前の仕事をそんなに増やしてるんだ!」お前だ。


「誰でしょうね。ホント、勘弁してほしいですよねえ」「まったくだな。…うん?そうだ、それなら俺が手伝ってやろう!」やべえ、と思った私の感情はまた表情に出たようで、「だからなんでお前はそんなに嫌そうな顔ばっかするんだよ!」と得意げな顔をしていた上司は再び涙ぐむ。「すいませんなんか最近疲れて顔によく出ちゃうみたいで」「お前、それ、さすがに俺でもフォローになってないってことくらい、わかるぞ…フン!俺が手伝えば<一>時間もあれば終わる!そしたらそんな顔できなくなるんだからな!」「私もそれを願ってます、心から」見てろと言わんばかりに一柳検事は私の机の書類の山に手を出す。私は、どうか労力が倍になりませんように、と願って倣うように手を付ける。



それから結構な間人の減ってきたオフィスで黙々と二人で山を崩していく。「できた!!これでどうだッ!!」と勇んで渡された書類は誤字の嵐だったが、思いのほか丁寧に仕上げてあって私は少し面食らう。このひと、ほんと、だめなのかできるのかわかりにくい人だな…「驚きました。字、綺麗なんですね」「だろう!昔っからちゃんと写すのは得意だったからな」練習帳を完璧に仕上げるのに燃えるタイプかあ、と私は上司の顔を盗み見る。一生懸命取り組む姿はなんだか出来の悪い子供に宿題をやらせているようで、可愛い。この比喩は失礼極まりないきがするけれど―「手伝わせちゃってすいません。あ、何か食べます?お菓子しかないんですが―」「そうだなーじゃあアメとか、あ」私がごそごそとデスクを漁っていると奥からは透明のパッケージに包まれた、ブルーのひらたい円形の何かに白い棒がくっついたものが出てくる。一柳検事はきらきらと目を輝かせて、「食う!」と言うので私はなんとない違和感を抱えながら渡し、


一柳検事が幸せそうにパッケージを開いて口に含んだところで気が付いた。


「ああああそれ!それは!だめです検事!ぺっして!ぺっ!」「ほえ?う、うげ、なんだこれ!ぬるってひてる」「当たり前でしょうスイマセンそれはゴムです!同僚のアメリカ土産の!!」一柳検事は顔をでろりと歪ませて唇からびろっと薄いブルーのゴムを覗かせる。「――ごむ?」「せ、つめいは、控えますけど、とにかく食べるものではないです…出してください」「うぇえ、美味そうだと思ったのに、とんだジョークグッズだぜ」不満そうに検事はそれを吐き出しゴミ箱に投げようとするから私はそれを慌てて奪う。ひ、人のいない刑事課のオフィスに私と検事が残っていた上にこんなものが捨ててあったら明日私は死ぬしかない。「でもなあ、さっきからここ美味そうなニオイ、してんだよな…なんだろ」


くんくんと検事は未練がましく私の周りを子犬のように嗅ぎ回る。「――うん?もしかしてみょうじか?」な、んということだろう―よりにもよってちょっと貰い物を試そうと色気づいた結果この人に気づかれてしまうなんて。「…へー。おまえこんな匂いつけるのか」「……悪かったですね。こんなものつけてて」「だ、だからそんな怖い顔すんなよ!その、俺は、いいと思う。美味そうで」うんうん、と満足げに検事は頷き、私はなんだか顔が熱い。こ、このひと意味わかって言って―るわけがないのに…ああ、もう私は俯いてがりがり書面に戻る。「大丈夫かよみょうじ、顔真っ赤だぞ」

この上司そろそろ変わってくんねーかな!


Strawberries & Champagne
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -