あの撮影の後―私を蹴り回した男はカメラを持って出て行った。部屋には、私とカメラを向けていた男が残り―たぶん、あの、私に執務室で銃を向け更にここで蹴り回したあの男よりも、だいぶ年若い――「検事さんホント、ヤッバイねえ。さっきのあれ最高だった。映画みてェ」「…どうもありがとう。あれ、一体、どうするの…?」送りつけたとしても、それが何になるというんだろう―唯の私や検事局への侮辱くらいにしか、ならないんじゃないか。残った男はけらけら笑う。「知らね。あれはボスがどーしてもやりたいって言ったことだから、俺は従っただけだよ。プレゼントすんじゃね、検事局にさ」「な、んであんなことを…うっかり死んだりしたら台無しなのに」男はそこで、私の前にしゃがみこんだ。「殺さねえよ。少なくともこんなとこじゃ、ね。まあボスは検事が大ッ嫌いだからさぁ、さっきも相当キテて俺ちょっと心配だったんだけど―アンタがあのまま死ぬんじゃないかって。でも生きてる。気絶もしてない。さすがだよ」へらへらとした、笑みは―何かを孕んでいる。麻痺しつつあり遠のいたと思ってばかりいた恐怖が息を吹き返す。「だから、さぁ――俺アンタのさっきのあれでちょっと勃っちゃったし、付き合ってよ。今度こそ、楽しく、さ」そうだ、すっかり忘れていた、私はそういう物を向けられる可能性も―あったのだ、殺さずに陵辱するのにもってこいの方法が、男女間には存在している―――床に私を座らせ、自分は転がっていた折りたたみ式の椅子を引っ張り出して座り、股間に顔を向けさせて―男はそれを、取り出した。ひゅっ。



風を切る音がした。ぼんやりしていた視界が映したのは―かなり大ぶりの、軍隊で使われるようなサバイバルナイフだった。「……、え?」想像してたのと、違う――何だ?「何ビックリしてんの?そんなにチンコしゃぶりたかった?」「――な、だっ、え―?」「ま、それでもいんだけどね。そんなんフーゾクでも女の子にでもいくらでもやってもらえんじゃん?俺こっちのが好きなんだよねえ」私の唇に、刃の背の部分を押し当てる―何を言われてるのか、理解の範疇を超えている。尖った刃先は私の頬に僅かに食い込み、小さく血が滲んでいて―「咥えて。全部、さ」――息が止まりそうだった。恐怖で。唇が震えているのが、自分でもよくわかる。何を言われているんだ、わたしは―「わかんない?こうすんの」いきなり額を押され、顔を上げられて、驚いて開いた口に簡単にそれは押し込まれた。冷たい金属。怯えて口を閉じてしまいそうになったが、脳のどこかが―たぶん生存本能とかそういう脊髄反射みたいなニューロンを介さない何かがそれを止め、私は舌が刃の側を滑らないように必死に寄せることしかできない。「そうそう。そーやって舐めて。歯は立てずに、全部綺麗に」顔を動かすことが、もう、それだけで死を意味する気がする。できるだけ顎を動かさずに、しかしばかみたいに開きっぱなしの口からは、ぼたぼたと唾液が零れていくのがわかる。下で刃の裏面を撫でる。鉄の、無機質な金属の冷たく生ぬるい味―ぎざぎざとした刃の部分が、舌の脇にぶつかり、でもそこも濡らさなきゃいけない―ちくんと痛んで、何度目かの、でも今度ははっきりとした新鮮な流血の味がした。「…ハァ、すっげ…ねえ検事さん、ちょっと足開いてよ」ひゅっと簡単に私の口はナイフから開放され、外れそうになっていた顎でぜえぜえと息を―する。今度こそ。今度こそか。頼むから、まともに自分を犯してはくれないか――と場違いな願いを持つ。重い足を引きずって足を開くと、おもいきりスカートをめくられて―「うわ、良い趣味してんね。彼氏かな」散々自分が唾液を含ませた凶器で私のタイツと下着を簡単に切り取った。



黒いシルクの、それなりに―それなりにいい値段だった下着は布切れと化す。私は羞恥と恐怖とその他もろもろで、顔を赤くし息を荒げながら男の行動を伺っていた。拘束のせいで隠すこともできない―し、ここで従っておかなければ何をされるかわからない。危険すぎる。「じゃーん」そこで現れたのは、また―ナイフ。サバイバルナイフだ。しかしさっきのとは違って、黒塗りで刃もスムースで―さっきのはたぶん米軍、こっちはドイツ軍―かな―とかわかったところで何の意味も無いことに必死で思考を逃避させる―刃には申し訳程度に何枚かサランラップが巻いてあった。「俺これのケース家に置いてきちゃってさぁ、こんなのしかなかったから代用してんだけど」男は世間話のような気軽さで話しながら、私の膣口に指を突き立てる。乾ききっていたそこは痛みしかない。鈍い悲鳴が私の口から、上がった。完全に異物どころか危険物とみなされた指を、押し返そうとする動きを無慈悲に掻き分け―淫核をぐりぐり弄られた。「ああ、まさか処女じゃないよね?処女だったらそれはそれで、楽しいんだけど―違うよねぇ」痛みで息ができない。それでもやはりその膣内の蹂躙にも防衛本能が働いて、だんだんと脳内は痺れ、ぬるりとした分泌液で―濡れはじめる。肺を酷使するように吐かれる私の息が、徐々に熱を帯び始めたのを理解したのか、男はけらけら、先ほどのように笑い始める―「濡れんのはっや。すました顔で検事なんてやってるくせに、もしかして昔はビッチだった?それとも今も?」「――ち、が―」「さっきも速攻フェラさせられるってわかってたもんね、よっぽどやり慣れてんのかな」―屈辱と、わけのわからない快楽―苦痛と恐怖が限界突破して、必死に代用の感覚を探していたところで、この強制的な快楽を与えられて―異様なくらい濡れていたし、確かに私は感じていた。あきれるほどに。「も…嫌だ、ぁ…やめ、て」「またまたぁ。楽しくやろうよ、よくなってきたでしょ?俺の手検事さんのでべったべただよ」――し、んでしまいたい。情けなくも。本当に、このわけのわからない沢山の感情の奔流から逃げられるなら。なんだってする。「………、う、いぃ、から…いれる、なら…いれて、っ…」もうどうなってもよかった。犯されてそれで気が済むなら、逃げられるならそれでいい。そうなってくれと願っていた。御剣の顔に辿り着くには―恐怖という感情が強すぎる。「ホント?じゃあ遠慮せず入れたげる」けらけらと、いかれたトーンで男は笑い――



「あ。ちゃんとゴムつけてあげるよ。さっすがにそこまで俺も鬼じゃねーし。大丈夫ですよー」もう何でもいいから早くしろ、いいから早くしろと急かしたところで―――おおよそあの熱と質感とは程遠い、えらく薄く広く冷たい――まるで、さっきまで咥えていたあれを入れられた、ような――「ぁは。検事さんがケースになってくれんなら超楽」男は手を叩いて立ち上がった。纏う衣服には、一切の乱れも、なく――「ぇ、え…?な、に…?」「わかんないなら見てみれば?」男はがたん、と椅子の向きを変えて背もたれに伏すようにして再び座り、私の方を覗きこんでいる。私は喉だけで息を繰り返しながら視線をゆっくり、自分の股間に下げていく―と。私の足の間に、黒塗りのナイフの柄が見えた。刺さっている、ようにしか、見えない。ナイフがそこに突き立てられているようにしか。もはや現実をそのまま受け取る能力はとうにどこかへいってしまいそうで―「マジで危ないから、動いたり気持ちいいからって中であんまり締めない方がいいよ。俺もうっかり手切っちゃったりしたしさ―」ひらひらと振る男の掌には包帯が巻かれている。「あ、ぁ、あ…っ」声にならない。恐ろしさと快感と屈辱と恐ろしさと、逃げ出したい叫びだしたい衝動と泣いてしまいたいほどの―「い、やぁああああああああっ!!!」蹴られてもおかしなことをされても必死で抑えつけていたものが爆発した。泣いても叫んでもどうにでもならないってわかっているのに―わかっているのに、人間の、私の体は肉体的ストレスに対してはあまりに無力だ―「ど、うして…?どうしてッ!犯すなら、普通に犯せばいいでしょ!力づくで、私を辱めたいなら、それで充分でしょう?!男なんてみんな興奮したらそうせずにはいられない癖にッ!!」げーらげらと男は笑って、ひときしり楽しそうに笑って、答える。「だから、さ。そんなこと女の子なら誰だってやってくれんでしょ?金さえ払えばどんな不細工だってデブだって。それなのにこんなとこでさあ、まともにエロいことされておしまいだとでも思ってんの?アンタどんだけ、自分のオンナに価値置いてんの」


「世の中、俺みたいに入れて中出しするよりずっとイイこと知ってる奴もいっぱいいるんだよ。検事さんみたいに、マトモな世界の象徴みたいな人には一生わかんねぇだろーけどね〜」男はへらへらへらと笑う。何もかも崩されて、壊されて―頭の芯が痺れてなくなりそうだった。力が抜けて、このまま気絶してしまおう、今度こそしてしまおう、そうすればこの空間から逃れられる―と思って力を抜こうとしたところで、男の足が、動いてナイフの柄の部分を踏みつけた。ぐり、と角度が変わって―膣内をナイフの背が、擦る。「ふぅ、あ、っ」予想外の箇所からの予想外の感覚に私は素直に声を出してしまった。ぐりぐりとそのまま柄が踏みつけられ、その度にナイフは中を、こすって、痺れるような快感がだんだん増えて、意識を手放すことさえできない―「ぁ、あ、ぅあ…、っ」男が笑う音がする。視界はもうこんなにぼやけはじめたのに、どんどん感覚だけは鋭敏になっていく、「検事さんさ、検事なんてやめちゃえば」もうやだ、わからない―なんにも、わかんない―痛いのに、怖いのに辛いのに、苦しいのに、死んでしまいたいくらい恥ずかしいし情けないのに、こんなものでどんどん気持ちよくなって―ぇ―「そういう店紹介してあげるよ。色んな客にいっぱい可愛がってもらえるよ、俺なんかよりもずっと上手く、こういう風に、さあ」れいじ、の、顔がもう見られない。こんなもので、こんなところでこんなになっちゃう、わたしなんて、もう―、怜侍、だめだ、怜侍のことを考えたら、優しい手とか、抱きしめられるのとか思い出して、もう頭の中が苦しくて、ますます中が切なくなる―「蹴られてるときからずーっと思ってたけど。アンタ、苛められる才能ありすぎ」びくん、と下肢が震えて涎が垂れた。怜侍、たすけて、ごめんなさい――――と、ぼろぼろの意識の中で思う。白い靄ばかりの待ち望んだ意識の沈没だけが、そこにあった。




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -