デートに浮き足立つだなんて、カッコ悪い。
はりきったりとか、ばかみたいだ。
そんな下らない理由で、園を出る時間を少し遅らせた。
が、待ち合わせ場所へ向かっていく傍ら、"時間に遅れる"という行為について色々思案してみたところ、"失礼極まりない"と、結論が出、挙げ句"下手したら嫌われる"と論が結ばれたので、途中からはダッシュだった。
乱れていく髪型なんかに、構ってらんなかった。
「霧野先輩!す、すいません遅れてっ」
何処にいても目を引く桃色の髪。
耳の辺りで2つに結って、白いうなじが眩しい彼。
狩屋は霧野の後ろ姿に駆け寄り、思わず、縋るように彼の手を握った。
はぁはぁと、みっともなく息切れする自分に嫌悪と羞恥を抱きながら、懇願に瞳を潤ませ彼の顔色を伺う。
「えっと…、あの、ね、寝坊しちゃって…本当に、すいません」
うわ。初デートで遅れるとか有り得ねえだろ。
嫌われたらどうしようマジ殴りたい過去の俺。
どくどくと、ある意味、初デートには似つかわいしい心拍数に、心臓が痛くなってきた。
そして、霧野はそんな狩屋の様子に破顔し、
「俺も今来たとこだよ。大丈夫」
そう言って、狩屋のぴょんぴょん跳ねた猫っ毛を指で梳く。
安堵した矢先に、頭に撫でられるという不意打ちを受け、思わず全身が硬直し、暫くされるがままだった。
「お前、髪大変なことになってるぞ。花弁もついてるし」
「…ファッションですさわんないで下さい!」
お母さんかよ…、ふと過ぎった突っ込みは、飲み込んだ。
折角のデートが、しんみりしてしまうかもしれなかったから。
「お前も癖っ毛なんだなぁ。神童よりは、軽いかもだけども」
霧野がそう言った途端、狩屋はむうっと口を尖らせた。
握っていた手を振り払い、一房、霧野の髪を引っ張る。
「今日はキャプテンの名前出すの禁止ー」
目と鼻の先まで迫る霧野の顔が、怪訝に歪む。
「えー…なんでさ」
「嫉妬に決まってんでしょー」
「おー今日はずいぶん素直じゃん」
「キャプテンの名前言ったごとに、俺の名前5回言うこと!」
「なんだそれ。あ、じゃあお前も今日はじゅんじゅん禁止な」
「じゅんじゅん禁止…って、別に困らなくないですか。俺普段からじゅんじゅん連呼してる訳じゃないし」
「今すぐ携帯の待ち受けを変えなさい。俺にしなさい」
「なっ、なんであんた俺の携帯の待ち受けじゅんじゅんって知ってるんですか…!?」
「お前は俺の待ち受け知らない?そんな訳ないよな?」
独占欲が強いのは、お互い様だろう。
霧野はそう続けて、にっこり笑う。
少女めいた甘い顔立ちは、可憐さと凛々しさの中間を絶妙に保持。美少女と称しても遜色ない彼の容姿端麗っぷりに、狩屋は目眩さえ覚えた。
「…まあ、先輩の待ち受けくらいなら把握してますけど」
霧野の髪から手を離し、懐の携帯を取り出す。
っていうか、たぶんデータフォルダくらいなら全部把握してますけど。
携帯を操作しながら、心の声で付け足した。
先輩フォルダ内の中でもお気に入りの写真を探し当て、設定する。
んーこう見ると、じゅんじゅんと先輩は似てないなぁ。じゅんじゅんは可愛い系。先輩は美人系。
待ち受け霧野先輩って刺激強すぎ。
開くごとに、心臓飛び跳ねるじゃん。
そして、狩屋は携帯を閉じ、ふとした疑問を霧野に投げ掛ける。
「先輩って俺に独占欲あったんですか」
「そりゃ」
「ふうん…」
そんな素振り微塵も見せないから、なんか、意外。
嬉しいような、怖いような。
「俺、狩屋が思ってる以上に、お前が大好きだぞ」
「……っ!?」
あんた初っ端から、飛ばしすぎじゃね。
瞳を左右等しく楕円に細め、微笑む霧野に、狩屋は目を奪われる。
その輝きはパーフェクト。否応無しに、狩屋の心拍数は数段上がった。
あーくそ。
俺が男役じゃなかったっけな!
あくまでマサ蘭
(頑張れ狩屋!)
「俺も先輩好きですよ」
「知ってる」
「うっわなにその反応」
「だって事実」
「えー…なんかこう、どっきーん!とかないんですか」
「狩屋は可愛いからなぁ。どきーんっていうより、ほわーんだなぁ。和む」
「なっ…!」
「まずは俺よりも身長高くなんないとなぁ。狩屋」
「………絶対あんたより10センチは高くなってやる!そしてその暁には、呼び捨てタメ語で愛の言葉を囁いてやりますよ!」
「うん。まってる」
「………蘭丸好きだ」
「………今言っちゃダメだろ」
「待ちきれなかったです」
「そういうところが可愛い」
「しね」
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2009/02/04
ひとこと
…あくまでマサ蘭です。
…マサ蘭なんです!
こんな感じの兄弟みたいなマサ蘭が好きです。
リクエストありがとうございました!
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