神童視点



















ああ、苛々する。

苛々する。苛々する。



胸に沸く激情に身を任せ、眼下に並ぶモノクロの鍵盤を叩いた。


ビィンと、指の骨に痛覚を含む痺れを生じ、同時に鼓膜に突き刺さってきたのは、不協和音。



静寂を叩き割る粗悪な音色に、脳が揺さぶられる。


頭を垂れ、強く目を瞑った。


尾を引く響きの音は割れて、音程の狂った不快極まりない和音が、ビリビリと全身を逆撫でる。


生み出された音の醜さは、そのまま自分の心を投影しているようで。




さらに、苛々した。




「ああ…、もう…っ」




呻きに似た溜め息混じりの声が、口から零れ落ちる。




目蓋の裏には、愛しい彼の笑顔。



翡翠色の瞳が楕円型になって、唇が緩やかに弧を描いた天使のような眩い笑顔。


その屈託の無い笑みが、憎たらしくて憎たらしくて堪らない。




だって、他人に向けられたものだから。

俺なんか、見てないのに、彼が笑ってるから。





皮膚の内部をのたうち回る不快感。

掻き毟られた心から露出してくるのは、嫉妬。執着。



彼に依存して、

もう、脱け出せそうにない。





どうして、君は、



俺の隣じゃなくても、平気で笑っていられるの?



君は、俺がいなくてもいきていけるの?


そんなの許さない。有り得ない。


おかしいよ。






「霧野」






彼の名前を呼んでみる。


呆気なく、沈黙に溶けた。





「…霧野、霧野、霧野霧野霧野」






霧野、霧野、霧野。

霧野蘭丸。霧野蘭丸。霧野蘭丸。霧野蘭丸。霧野蘭丸。霧野蘭丸。霧野蘭丸。


蘭丸蘭丸蘭丸蘭丸蘭丸蘭丸蘭丸蘭丸蘭丸。







ああ、


愛しい人の名は、どうしてこんなにも甘美な響きを湛えているのか。


ピアノから迸るどんな珠玉の音にも優る、極上の音楽。


棘棘とささくれ立った心の表皮が、撫で付けられていく。




「霧野」




やっぱり、君が必要なんだ。

君がいないと、俺は、心が醜くなって、きっと死んでしまう。







ああ、この、



歪んだ恋心を、

俺は、どうすればいい?















好きなの。
(俺以外に笑いかけないで)














‐‐‐‐‐‐‐‐
2009/03/27
ひとこと


病みは好きなのですが書くとなると難しいです…。

嫉妬をピアノにぶつける神童くんがかけて楽しかったです。

リクエストありがとうございました!!



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