DendrotoXin

アンチプルースト



パリストンはあまり食の好みが無い。しかし幼い頃、祖母にブルーベリーは体にいいからと言われ、馬鹿みたいにブルーベリーばかり食べさせられた時期があった。そのせいか、自発的にブルーベリーを食べたいと思うことはなかった。なんならあの独特な酸味に若干の苦手意識すらある。
今日仕事で一緒になったナオキはパリストンも認めるハンターであった。様々なことをそつなくこなし、時々こちらをからかう程度で本当に面倒だと思うような態度は見せない、そんな女だった。しかし休憩で寄った喫茶店で、彼女が紅茶とブルーベリータルトを注文した時、パリストンは言い知れぬ不快感とも取れる感情を自分の胸中に感じた。別に他人が何を食べようが、パリストンには関係ない。そんなことは理解しているが、ともすればナオキに裏切られたような気さえした。タルトが有名な喫茶店だったが、到底食べる気分では無くなってしまい、パリストンはコーヒーだけ注文した。

「僕、ブルーベリーって好きじゃないんですよね」

どうしてこんなことを口走ってしまったのか。パリストンは自分が発言したことさえ、妙な沈黙と彼女の面食らったような顔を見て初めて気が付き、軽い眩暈を感じた。疲れているのかもしれない。そう思ったが、今更訂正するのもなんだか違う気がして、話を続けた。ただナオキに聞いてほしかったのか、ただ嫌がらせがしたかったのかは定かではない。
結局注文したものをウェイターが運んでくるまでつらつらと、いかにブルーベリーが気に食わないかを女に聞かせた。ナオキはパリストンの息をするようについて出る嫌味には慣れていたので特に気にするでもなくフォークでタルトの三角の部分を掬った。
タルトのホールでいうと中央に位置する、美しく尖った部分を、ナオキはタルトのトロだと思っている。一番おいしいような気がするタルトの部位。つまり目の前の男が一番食べたくない部分だろう。
ナオキはパリストンが無意識だろうが故意だろうが、嫌味を言ってきたら嫌がらせをやり返すようにしていた。なので、「一番おいしいところあげるよ」と言ってフォークをパリストンの口元に突き出してやった。「いやぁ、そんな悪いですよ」とパリストンが口を開いた隙にすかさず口に突っ込む。
口から出すわけにもいかず、すぐ飲み込んでしまうでもなく妙な速度で咀嚼するパリストンに「私は好きなの」と一笑し、彼女もタルトを口に運んだ。
口の中にある煮詰めたブルーベリーとなめらかなクッキー生地がなくなるまで、パリストンはナオキから目が離せなかった。自分が不覚を取ったのが悔しかったのも理由として少しある。しかし、彼女が目尻を垂らしてタルトを食べているのを見ていると、なんだか自分の口の中にあった欠片たちも、とても美味しい物のように感じられたのだ。ブルーベリーの味が急に変わったりする訳はない。しかし、記憶の味よりは悪くないと、パリストンはコーヒーの水面に口角の上がった顔を映した。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -