私の王子様
深い深い森の中。
「セトー、どこー!」
薄暗い樹海に私の声が響く。
今、私は迷子です。
「どうしよう…」
いくら歩いても同じ景色。
セトと一緒に任務に来て。
はぐれちゃったのは、確か三時間前…。
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「任務完了っすね!」
「うん!私、おなか空いちゃった」
「早く帰ろう。みんな待ってるっす」
任務が終わったのは大体お昼過ぎだった。
セトと私はアジトに帰るために歩き出す。
道なんて作られてないから、セトが少し前を歩いて道を作ってくれている。
「マリー、大丈夫っすか?」
「うん、大丈夫だよ」
たまに、私のことを気遣って声をかけてくれたりして。
危ない山道なのに、少しニヤケそうになる。
その時、視界の端に何かを見つけた。
動物…?
それの体には赤いものが滲んでいて。
「あ、セト、ちょっと待って」
手当てしてあげなきゃという思いが一番強くて。
セトが私の言葉に気付かないでどんどん先に進んでるなんて思いもしなかった。
今思えば、セトがどうしたんすか?って声をかけてこないなんておかしいはずなのに。
私はそんな事気付かないで、その子の手当てをしていた。
「…よし。これで大丈夫だよ!」
帰ろうと振り返ったら誰もいなかった。
「セト?」
どこに行ったの?
この前、はぐれたら動かない方がいいって、本で読んだはずなのに。
その時の私にはそんな事を考えている余裕なんてなくて。
頭の中は真っ白で、サーッと血の気が引いていくのがわかった。
これってもしかして…。
「迷子…?」
そして、今に至る。
歩き回らなければよかったなんて後悔してももう遅くて。
私は泣きそうになるのを必死に堪えながら歩いていた。
辺りは薄暗くなっていき、夜行性の動物たちが活動を始めようと準備をしているのか、カサカサと音が聞こえてくる。
「セトー!!」
私の心は不安に押し潰されそうで…。
早く、見つけに来てよ…。
その時だった。
一瞬、片足が浮いたと思ったら、ガクンと膝が曲がったと同時に体に衝撃が走った。
何が起きたのか分からなくて足を動かそうとすると。
「いたっ…」
激痛が走った。
上を向くと、今まで私がいたであろう場所が目に飛び込んできた。
あぁ…、落ちたんだ…。
なんか、他人事のように感じて。
動けなくて、誰にも見つけてもらえなくて、このままここで死んじゃうのかなぁ…。
今まで我慢していたものが溢れ出し、瞼が熱くなる。
そして、熱い雫が頬を伝って地面を湿らせた。
陽はとっくに沈み、いつの間にか暗くなっていた。
「助けて…」
誰でもいいから…。
そんなこと言っても、彼の顔しか出てこないわけで。
「セトっ…」
そう、彼の名を呟いた刹那。
「マリー!!」
声がした。
この声は…。
反射的に顔を向けると、汗だくになっている彼がいた。
よかったと小さく聞こえる。
そしてわざわざ私のところに来てくれて。
私は思わず抱きついた。
「セトっ、セトっ…」
「心配したんすよ…?」
頭を撫でてくれる大きな手はすごく暖かくて。
少しずつ私の心は癒されていった。
私がぎゅうっと力を込めると、それに応えるようにセトの腕が私の体を包んでくれた。
「マリー、帰ろう?みんな心配してるっす」
「うん。ごめんなさい。あ、あのね…」
「どうしたんすか?」
「足、ケガしちゃったみたいなの…」
「動けないんすか?」
コクリと頷くと、セトは私に背中を向けてかまえる。
これは、いわゆるおんぶの格好。
「乗るっす」
ごめんねと一言いって、彼に腕を回すとフワッと勢い良く浮かびあがった。
「わっ!」
「落ちないようにしっかりつかまっとくんすよ?」
「う、うん」
彼の大きな背中はすごく暖かくて。
不謹慎だけれど、幸せだなぁと思ってしまったのは、ここだけの秘密。
あとがき
初のセトマリです!
もう、王子様要素どこにもないよorz
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
2013/07/23 桜音
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