夜の月明かりに照らされて
私の部屋にやってきたのは、
愛しい貴方でした。



*

「(って、なんでゾロが女部屋に来てんのよっ!?)」


普段は私も眠りにつくと中々起きない方なんだけど。
今日は満月で、星も出てたからちょっと景色を眺めてたら、急に足音が聞こえて。
んで、急いで布団を被ってみたら、丁度視線の先にあるドアから入ってきたのが……ゾロでした。


「(ちょっと待ったぁ!ゾロが女部屋に何の用があって……もしかしてナミにお金について腹いせ?)」


微かにゾロのピアスの金属音が聞こえる。
それにしても……夜くらい刀降ろさないのかな……。
ってそんな事考えてる場合でもない!!
あーだこーだ心の中で言っている間に、ゾロは私の目の前で立ち止まった。


「(って私かぁ!!)」


私、ゾロになんか怒らせることしたっけ!?
頑張って目を瞑って寝てますオーラを出した。
よし、今の私は完全にたぬき寝入りモードに入った!


「………」


!?
ゾロが手を伸ばしたと思うと、私の顔を布団から出し、向きを変えた。
待って、身体が横向いてるのに顔が上を向いてるのはちょっときついよ!
……でも、一体ゾロは何の用が?
これは起きて良いタイミング……


「!?」


瞬間、私の唇に何か触れた。
暗闇の中、それが何かを一瞬で考える。
って言っても、この感触は一つしかない。
ゾロの唇だ。


「(でぇー!?ちょっと待って、なんで、何でキスされてんの私!!)」


私が寝ている所為か、当てがうだけのキス。
金属音が近付く。


「……!」


やっと唇が離れたと思ったら、右手で布団を剥ぎ取り唇が私の首筋へと流れる。
ゾロのあたたかい舌が這う。
その感覚を感じながら、私は固く眼を閉じた。
……完全に起きるタイミングを見失った。


「………」


これからどうなるかと考えていたけど、ゾロの行動はそれで終わった。
鎖骨辺りまで唇が進み、ゾロの顔が離れたのを気配で感じた。
そしてその後は、私に背を向けて女部屋から出て言った。


「……っ何…?」


私はゆっくりと起き上がり、ドアを見る。
ゾロに奪われた唇を、そっと指でなぞってみた。
どうしてこんなことをするのか。
理由も言わずに、こんな夜に。
一体……どうしたって言うのよ……。

明日になったら問い詰めてやるっ!!





「なぁーセーラー遊ぼうぜー」
「嫌だ。あんたたちと遊ぶと体力が尽きちゃうもん」
「いいじゃんかよー鬼ごっこしようぜー」
「っておいルフィ!メリーの上で暴れんじゃねェーよ」
「そういうウソップだって参加するくせに」
「そ、それはー不可抗力だ」
「どこかだよ!」


朝。
ゾロの様子がおかしかったら理由を聞いてみようと思ったけど。


「おーいゾロー!お前もやろうぜー!」
「ぐぁ〜〜…が、」
「ちぇーっ寝てるのかよ」


そう!!
寝てるのよ!!
いつものように!!
ぐーぐーと!!
何でそう平然と寝てられるのよぉおぉ……!
悩んでる私が馬鹿みたいじゃない!!


「んじゃあ、参加者は俺とウソップとチョッパーとセーラな!」
「ちょっと!勝手に決めないでよ」
「えーなんで?しねェの?」
「今日はお預け。また明日ね」
「なんだよーセーラのケチ!」
「ケチで結構。んじゃねー」


後ろでぶーぶー言ってるけど、それより私の機嫌の問題よ!
ゾロに聞かないと気が済まない。
ちゃんとした理由じゃないと、納得できない。
抵抗もできない私の唇を奪って……!!
いや、嫌じゃなかったけど!!

メリーを背もたれにして眠っているゾロ。
それにゆっくりと近づいて……起きないように……。


「何してんだよ、セーラ」
「っ!?ななな何で起きてんのよ!!」
「あァー?」


何だか、変な人を見るような目で見られた。


「じゃなくて、おはよう、ゾロ」
「ああ、おはよ」


私はゾロの前に座る。
そして様子を伺う。
じっと目を見てみても、目を逸らさない。
むしろ、何だこいつ的な目で見つめ返されてる。
昨日あんな事しておいて恥ずかしいって気持ちはないのかしら。


「……何だよ、さっきからジロジロと」
「ねぇゾロ」
「?」
「何で昨日私にキスしたの?」
「ぶっ!!」


あっ吹き出した。
おまけに咽てる。


「なな、なんで……んなこと…」
「だって気になるもん。っていうか、私あの時実は起きてて……」
「!?何で起きねェんだよ!」
「起きて良いタイミングなの?あそこは!!」


言うと、ゾロはう、と言い返せなくなった。


「で、どうしたのよ…。もしかして、夜這い?」
「……あぁ」
「って否定しなさいよ!!」


冗談のつもりだったのに冗談のつもりだったのに……!
言った私が恥ずかしいわよ!


「まァ、夜這いっつーか……お前にキスしたかっただけだけどな」
「それが夜這いってのよ。プチ夜這いよ」


キスだけで止まったけど、もし止まらなかったら……。


「本当ならあのまま犯したかっ「変な事を言うんじゃない!!」


ああ……何で私、こんなに恥ずかしい思いを……。
普通なら言ってる本人が……。
なんだか自分が自分でツボに入ったようで気に食わない。
とりあえず、ゾロの頭にチョップを入れた。


「ってェな…。仕方ねーだろうがっ!ここ最近満足にお前に触れねェんだからよ」
「さ、さわっ」
「あれでも、キスした後我慢したんだぜ?」
「我慢って……」


だめだ、話についていけない……。
ていうより、よく夜に行動に移そうと思ったわね……。


「昼間はほっとんど別の奴らとはしゃぎやがって」
「……もしかして、寂しかった?」
「ちっげーよ。むしゃくしゃしてただけだ」
「むしゃくしゃでキスするなっ!」


ゾロには何を言っても無駄だ…。
もう完全に、自分勝手モードに入ってる。


「何よ…言ってくれたら、キスくらい……」
「させてくれるのかよ」
「………誰も居ない時になら」
「……お前の周りに人が居ない時なんてあるか?」


ありませんねーあはは。
元々一人が苦手なのもあるからか、無意識に人がいるところに居てしまう。


「だったらなァ、俺の所に来い」
「…え?」
「俺はお前みたいに気は長くねェ」
「…、」
「また夜、襲われたくねェんなら俺の傍にいろ」
「……我儘」
「何とでも言え」


ゾロは私の腰を掴み寄せ、またキスを落とした。
私も、ゾロの背中に手を回した。

丁度今は、朝ごはんで皆が食事をしている頃だった。





我儘で強引なキスを残して、
(今度夜来たら、叫ぶからね)(それはお前の態度次第だな)(……自分勝手な…)