※微裏/狂愛?



「セーラ〜!捕まえた!」
「きゃあっ!」


今はまったりと航海中。
サニー号の上ではルフィ、チョッパー、ウソップ、そしてセーラが鬼ごっこをしているところだ。
そして今、セーラはルフィの手によって捕まってしまった。


「ちょ、ちょっとルフィ!腕伸ばすの禁止って言ったでしょ!」
「いーじゃん!ちょうど見つけたし!」
「それじゃあかくれんぼになるでしょ!」


長々と伸びたルフィの腕によりぐるぐる巻きにされたセーラは近づいてきたルフィに文句を言う。
だが、ルフィは悪びれた様子はなく、いつもの笑顔で答えた。


「ったく、セーラも学習しねェなァ。ルフィが鬼の時はこうなるから隠れなきゃだめだって」
「そうだぞ!ルフィの鬼は強ェからな!」


どうやら近くで隠れていたらしいウソップとチョッパーが出てきてセーラに笑いながら言う。
とは言っても、それでは鬼ごっこにはならない気もする。


「ほんとに我儘なんだから……。捕まっちゃったところ悪いけど、私疲れちゃったから休憩したい……」
「なんだよ!せっかく捕まえたのに!」
「セーラは体力ないからな〜海賊のくせに」
「それ、ウソップには言われたくないんだけど」


ようやくルフィの腕の拘束から逃れたセーラはふうと息を吐いて言う。
ルフィは不満そうに口を尖らせて言い、ウソップはからかうように言った。


「でも、適度な休憩も必要だぞ!セーラ、日陰で休んでろよ」


ここでチョッパーが助け舟を出してくれた。
セーラは嬉しそうにうんうんと頷き、チョッパーの頭を撫でる。


「そういうことで、あとはよろしく」
「ちぇっ。じゃあセーラ、また後で遊ぼうぜ!」
「はいはい。気が向いたらね〜」


未だルフィはぶつくさ言っているが、まだ聞き分けのいい方なのでこの隙にセーラはパラソルの下で冷たいドリンクを飲んでいるナミとロビンの元へ行った。


「ふうっ、暑いー…」
「お疲れ様」
「ほんと、よくあの連中とはしゃいでられるわねー」


パタパタと手で風を自らに送りながら、セーラは涼しげに休んでいる二人と同じように席に着く。
ロビンはにこりと笑って、ナミはあきれたように声をかけられた。


「セーラちゃんっ!早速この冷たくて甘いドリンクを召し上がれ!」
「ありがと〜、サンジ」


相変わらず準備の早いサンジから、お手製のドリンクを受け取り喉を潤す。


「ん、美味しい!動いた後のサンジのドリンクは最高だね!」
「セーラちゃんに褒められるなんて、俺幸せだな〜!」


笑顔のセーラに褒められたサンジは、嬉しそうに跪きセーラの手の甲にキスをする。


「もう、サンジは相変わらず大袈裟なんだから……」
「そんなことないよ!これくらい、セーラちゃんの為なら!待っててね、すぐにドリンクに合う冷たいデザート作ってくるから!」
「あ、それは嬉しい。ありがと」


そのサンジの行動を拒絶するわけでもなく、軽くあしらうセーラ。
それがますますサンジの行動を助長させるのか、サンジはタバコの煙でハートを飛ばしながら再びキッチンへと戻っていった。


「……ねえ、セーラ」
「ん?」


そのサンジを見送り、少し落ち着いたところでナミがセーラに声をかける。その表情は少し心配そうというか、真剣なものだった。


「あんた……ゾロと付き合ってんでしょ?それなら、少しは行動を考えた方がいいわよ」
「ナミの言う通りだわ。ルフィに抱きつかれたり、サンジにキスさせたり……」
「相手があのゾロだからって、さすがに少し無防備すぎるわよ」


ナミの言葉に、ロビンも真剣な表情で付け足す。
二人のアドバイスにも思える言葉を受けて、セーラは少しだけ切なそうに眉を寄せた。
一瞬だけ、ちらりとゾロがいる方向へと視線を向ける。
ゾロは皆がいる芝生の甲板からは少し遠くの、船首の下で昼寝をしていた。


「……も、もう、二人とも気にしすぎだよ?ゾロなら大丈夫だよ」
「でもねえ……皆年も近いし、特にサンジとは馬が合わないし……きっと、良く思っていないわよ」
「いくらずーっと昼寝してるからって、全部が全部見えてないわけじゃないだろうし」


ロビンは腕を組みながら言い、ナミは昼寝をしているゾロを見やりながら頬杖をつき呟く。
二人の言葉に、セーラは一瞬困ったように考えるも、


「でも、私がこの船に乗った時からルフィたちとはあんな感じだし……それも了承済みでゾロとは付き合ってるんだよ?それに、皆のはただのスキンシップで恋愛感情がないことだって分かってる。私も、ゾロも」



だから、大丈夫だよ。そうセーラは控えめな笑みを浮かべて言う。
そんなセーラを見て、ナミとロビンはお互いに顔を見合わせた。
確かに、元々陽気で元気はつらつなセーラは皆と仲が良い。
スキンシップは多いとは思うけど、そこに下心がないことも分かるし、それを見てゾロがセーラに文句を言っているところを見たことはない。
自分たちの考えすぎか。二人の間で既に話がされていることかもしれない。
そう思った二人は、ふっと笑みになりセーラを見た。


「そうね。二人がそう思っているなら、余計なお節介だったかもしれないわね」
「もうお互いに子供じゃないもんね〜。嫉妬とか、そういうことにはならないか。仲間なんだし」


どうやら納得してくれたようで、セーラも安心してつられるように笑った。
そして、ふっともう一度ゾロの方を見る。


「………!」


遠くにいるというのに、ゾロの細く鋭い視線と目が合った気がした。
はっとしてセーラは目を凝らして見てみるが、ゾロの双方の目は閉ざされており、眠っている状態だった。


「セーラ?」
「あっ……」
「今、ゾロの方見てたでしょ。気になるんなら、行ってきてもいいのよ〜?」


ロビンに名前を呼ばれ、セーラは二人へと視線を戻す。
ゾロの方を見ていたことをナミにばれ、からかうように言われるがセーラは苦笑して首を横に振る。


「い、いいよ、そんな。昼寝の邪魔をして怒られるのは嫌だし」


なんてことを言っていると、サンジがデザートを持ってきてくれたために、話題は逸れた。
美味しそうなデザートを目の前に、セーラは必死に、ゾロから注意を逸らそうとした。
先ほど目が合ったかもしれない、というのも、自分の気のせいだと言い聞かせるようにして。





その日の夜。
皆は既に寝静まっているであろう時間、セーラとゾロは、ほとんどゾロしか使っていない、トレーニングルームに二人きりで居た。


「っ、ん……!」


淡い月明りだけが二人を照らす。
静寂しかないトレーニングルームの中、セーラの両手はゾロの片手に拘束され、もう片方の手で頬を固定され……背後に壁があり、ほとんど身動きが取れない状態でセーラはゾロにキスをされていた。


「……っほら、もっと……舌、出せ」


ゾロの低く、ねっとりとした声が耳に届く。
セーラはきゅっと目を閉じたまま……言われるがまま、舌を出す。
するとすぐにゾロの舌が絡んできて、甘噛みをされながら繰り返しキスが交わされる。
ゾロがどんな表情で居るのか、セーラは気になったが……怖くて目を開けることはできないでいた。
ゾロがこう、強引なキスをする時は……多少なり不機嫌な時だからだ。


「はあっ……」


ようやく唇が解放されたと思えば、ゾロの顔はセーラの首元に埋められる。
ゾロの熱っぽい舌が首筋を這うのを感じ、セーラはゾクゾクと背筋を振るわせた。


「あ、あっ……ゾロ、待って……!」


両手は未だ拘束されたまま、先程まで自分の頬を支えていたもう片方のゾロの手が自分の服の裾を捲り、ゆっくりと侵入する。
太く、ごつごつとしたゾロの指先が、そっとセーラの腹部に触れた。


「っ……!」


それだけで、びくりと身体を震わすセーラ。
嫌、というわけではない。ただ……怖い。
こういった行為を行うことは初めてではない。自分はゾロのことが好きだし、触れ合いたいと思う気持ちはある。
だが……最近のゾロとこうして触れ合うのは、怖い。


「や、だ……っ、こんなところで……嫌……」


自分の腰に手を添えたままのゾロに、懇願するように……涙目で訴える。
この時ようやく、セーラはゾロの目を真っ直ぐ見ることができた。


「……泣きそうな顔、してんじゃねェよ」


ゾロは、切なそうな表情で自分を見ていた。
そしてぽつりと呟いたと思えば、セーラの服の中から手を引き、同じように拘束していた手も離す。
少し拘束の力が痛かったのか、セーラはすぐに自分の手首を摩った。


「俺は、お前を無理矢理犯したいわけじゃない。……わかってるだろ?」


ゾロの言葉に、セーラは何度も頷いた。
そう、ゾロは何も……セーラのことが嫌いで、こんなことをするわけではない。
むしろその逆なんだ。


「……私が、ルフィたちと遊んでるから、」
「それはもういい」


セーラが小さく呟くように言うと、ゾロはそれを遮るように答えた。


「前、セーラに言った通りだ。そいつらとじゃれ合うのは、もうどうでもいい。好きにすればいい」


ゾロはほとんど無表情のまま、セーラに向けて言う。
前、言った通り。……それは、セーラが初めてゾロの異変に気付いた時だ。
二人が付き合うようになってから、たまに夜、二人で落ち合って談笑をすることがあった。
昼間は皆が騒がしくて、二人きりになれることも少ない。だから、静かに二人きりになれる、その時間がセーラは好きだった。
だが、とある日。いつものように見張り番をしているゾロの元へ行くと、セーラは突然ゾロに押し倒された。
無表情、無言のままセーラの唇を奪うゾロ。そんなことは初めてで、戸惑っているセーラはお構いなしに、しばらく貪るようにキスをするゾロ。
数分という時間が、何時間とも思えるくらい、セーラにとって衝撃的な出来事だった。
そして気が収まったのか、キスをやめセーラに向け、ゾロは言った。

「俺は、お前が思ってる程心は広くねェよ」

怒りとも悲しみともとれない……切なそうに眉を寄せた、セーラが初めて見る表情で。
そしてその時知らされた。
ゾロは、自分と周りとの関係に嫉妬をしていたのだと。
まさかあのゾロが、と最初は信じられなかった。だが、ゾロの真剣そのものの表情を見るとセーラは本気なのだと痛感した。
そして、反省した。その旨をゾロにも伝えた。
ゾロが嫉妬をしてしまうなら、皆と接する態度を改める、と。
皆も、自分とゾロの関係は知っているのだから、理解してくれる。嫉妬という直接的な理由を語らず、やんわりと伝えたとしても皆は理解してくれるとセーラは思っていた。
だが、それもゾロは拒否した。

「お前は今のままでいい。セーラに無理をさせるのは嫌だし、それであいつらが不思議がるのも面倒だ」

少しだけ冷静になったゾロは、セーラの腕を引いて起き上がらせ、セーラの背中の埃を払いながら言った。
さらには優しく頭を撫でてくれ、先程の乱暴さも詫びた。

「あいつらと楽しそうにバカやってるセーラの笑顔を見るのも、別に嫌じゃねェし」

ゾロはそう言った。
だが、それで話が終わるわけではない。
本当に自分は今のままでいいのか、セーラはそう問うと、

「それでいい。お前はそのままでいい。……いいか?」

ゾロは言い聞かせるようにセーラの身体を優しく抱きしめる。
ちょうど、今もそうだ。


「ゾロ……」


セーラの小さな身体を、ゾロの大きな身体が優しく包む。
そこには、さっきまで乱暴にキスを求めてきたゾロの面影はない気がした。


「……昼間は、いくらでもあいつらにお前をくれてやる」


ぎゅうっと、抱きしめるゾロの身体は妙に熱っぽい。
声音もどこか寂しげで優しくて、恐怖など微塵も感じない。
大きな背中に手を回すと、愛しささえ湧き出てくる。


「だが、夜は俺のものだ。セーラ……夜だけは、俺はお前を絶対に誰にも渡さねェ」


耳元から聞こえるゾロの言葉は、どこかすがるようにも聞こえた。
そう、ゾロが先ほど乱暴なことをしていたのも、昼間抑えていた気持ちを、夜に表に出しているため。
だからきっと、昼間はやはり起きていたのだろう。それでも寝たふりをしていた。
ゾロは自分の気持ちよりセーラの気持ちを優先してくれているのだと、セーラは知っていた。


「うん……うん、私は、ゾロのものだよ」
「セーラ……」


だからセーラは、妙に遠慮をすることもなく、皆と今までと同じように接している。
最初こそ、溢れ出る気持ちに焦ってばかりいるゾロだが。
こうして落ち着くと、やはり優しく自分を触ってくれる。愛してくれる。
そんなゾロが、セーラもやはり好きだから。


「ゾロ、愛してる。……私はちゃんと、ゾロだけを愛してるから」
「ああ……俺も、セーラだけを愛してる」


そう、言い聞かせるように真っ直ぐにゾロを見て言うセーラ。
するとゾロも少し毒気が抜けたような、穏やかで安堵しているような表情になり、同じくセーラを見つめる。
そして今度は優しく、セーラの頬を撫でた。


「セーラ、目……閉じろ」


呟くゾロの言葉に、セーラは素直に従った。
もう、今のセーラに恐怖心は全くなかった。

再び落とされたキスは柔らかく、優しいものだった。
まるで麻薬のように……そのキスは、セーラの中の冷静さを奪っていく。




一瞬でも、相手に恐怖心を抱く愛≠ェ正しいものなのか。
ひりひりと痛む手首の存在。身体が震えた理由。浮かべた涙の意味。
それらの全て、この狂った月夜に溶け込むように消えてしまった―――。





Crazy Night
(もはや、何が正しくて何がおかしいのか、彼女の脳は考える事を放棄したのかもしれない)




勢いだけで書き殴ったものですが……こんなゾロさんもたまにはいいんじゃないかと思います。
それといまいち、どこからがノーマルでどこからが微裏かが分かっていませんが……一応微裏表記をしておきました。