「…………」
「…………」


ただ今私は読書中です。
純愛の中の純愛、そして今まさにその恋が実るかどうかの盛り上がり部分。
山あり谷ありの苦難を乗り越えた二人が互いに気持ちを伝え合うという、この本の醍醐味なのに。
読者である私の心は全く感情移入できていない。
何もその本が悪いわけではない。ただ、読書をしている環境に問題がある。


「…………」


じろっ、とその問題≠ノ目を向ける。
問題≠ヘ悪びれた様子もなく、また目を逸らす様子もなくじっと私を見つめてる。
そう、この船のキャプテンであり恋人であるローが。
向かい側にあるソファに深く腰をかけて、私のことを1秒たりとも目を離さずに見てる。
とにかく見てる。しつこいくらい見てる。目力で穴でも開けたいのかと思うくらい見てる。
よくは分からないけど、なんだか不機嫌というか……何かを要求するような目で。
初めは読書に夢中で気付いていなかったけど、この盛り上がり部分に入った時に気付いた。
………私の読書の邪魔でもしているのか、私の読書の時間を考慮して終わるまで待っているのか。
理由は分からないけど、このままだと気分があまり良くないので聞いてみることにした。


「……ロー、何か用があるの?」
「いや、特に何もない」


聞くも、また目を逸らさずにしれっと言う。


「じゃあ何で見てるの?」
「こうやって見続けて、どこでお前が耐えられなくなるか見てる」
「は!?なにそれ」


また何か新しい暇つぶしでも始めたのか……全く。
初めはそう思って溜息をついて無視をすることに決めた。
だけど、本当にローは私から目を逸らさない。
私が一度気付いたからか、若干不機嫌そうな雰囲気じゃなく、面白そうな目に変わった。
……一体何を企んでいるのやら。


「………読書に集中できないからやめて」
「嫌だ。俺の勝手だろ」


やめてと言っても見続ける。
楽しそうに笑っているあたり、私が嫌がっているのを面白がっているのね。
もう、しつこいというかうざい。
なるべく見ないようにするも、どうしても視界にローは入ってくる。
見つめることで何か気付かせたいような、求めるような、訴えるような目で。
……ああ、だんだんと恥ずかしくなってきた。
そりゃあ私だって、好きな人にじっと見られて無視し続けることのできる耐久性は持っていない。
ローにじっと見られていると思うと、やっぱり心臓というものはドキドキしてしまうもので。


「も、もう、そろそろ止めてよ」


少し熱を帯びた頬を見られないように、本で顔を隠した。
すると、気配でローが笑ったのが分かった。


「顔逸らしたな。もう限界か?」


そんな勝気な口調で言われると、勝負でもないのに負けた気がする。
やっぱり、ローの勝手な一人遊び……暇潰しに付き合わされたと思ってかちんとくる。
そう思うとなんだか癪になってきた。


「そんなことな」


ちゅっ。
反抗しようと本を閉じ、怒りの表情で反抗してやろうと思った時。
ほぼ同時にローがソファから立ち上がり、私の目の前まできて軽いキスをした。
わざとらしくリップ音まで立てて、柔らかい二つの唇が触れ合う。
私は突然のことに目を丸くして、言葉も出ないくらい驚いた。


「!?!?!?」
「ったく、可愛い顔しやがって」


そう言い、満足気な笑みを浮かべて再びソファに座った。
そして私を見つめる遊びは終わったのか、ローは目を閉じて静かな寝息を立て始めた。


「………っ」


今になってようやく状況を理解した私。
ナチュラルに寝はじめたローを見て、私は見る見るうちに顔が赤くなり全身が熱くなっていくのが分かった。


「………こんの……馬鹿ロー……」


私を見る優しくて潤った目。味わうように触れた熱っぽい唇。
限界だったのは、私じゃなくてあなたの方じゃない。





おねだりキャプテン
(キスしたいなら、したいって言えばいいのに……!)