※狂愛 空は雲一つない晴天。風も心地良く、清々しい1日がこれから始まろうとしていた。 サニー号の上では、各々が洗濯をしたり読書をしたり釣りをしたりと好きに過ごしている。 そして、その中でも一際呑気にマストを背に昼寝をしているのが……ゾロだ。 「…………」 気持ち良さそうに寝ている。 むしろ、眠ることが一番の幸せだとでもいうように、眠っている。 その姿を見るだけで、私はとても心が満たされて……愛おしく思える。 私は微笑を浮かべ……ゾロに近づいた。 「………!」 ズズッ、という何かがめり込む音と共に、ゾロは首を横に逸らし目を覚ました。 ゾロは大して気にしてない風に私の目を見た。 私はゾロと目が合い、心が震える程嬉しくなったのを感じた。 先程までゾロの頭があった場所には、マストに突き刺さっている短剣があり、太陽の光できらきらと光っている。 もしゾロが動かなかったら、脳天に突き刺さって即死だったかもね。 「おはよ、ゾロ」 「……ああ」 その短剣に手をかけたまま、私はにっこりと笑顔で挨拶をした。 ゾロもそれに短く答える。 「………ちゅっ」 今度はゾロの唇に触れるだけのキスを落とした。 「……どうして、キスは避けないの?」 「避ける必要がねェ」 「じゃあ、刃物は?」 「避けなかったら死ぬだろ」 当たり前だろ、とでも言いたげにゾロが呟く。 そんなゾロを愛おしげに見つめ、私は心底楽しそうに笑った。 狂気的だ、イカれていると幾度と言われた……その笑顔で。 私はゆっくりと、マストに刺さっている短剣を抜いた。 「だからやってるのに。残念だわ」 笑みを崩さないまま、そっとゾロの頬を撫でながら言った。 「あ、おいセーラ!またやったのかよ!」 「……フランキー」 「あのな、ゾロに殺しかかるのはいいけど、船に傷をつけるなよな!」 「ふふ、ごめんなさい。今度から気をつける」 「ったく、そうしてくれよ」 マストに刺し傷があるのを見て、通りかかったフランキーが注意をする。 それにも悪びれた様子なく、私は簡単に謝った。 そう、私のこの行動は決して珍しいものではないから。 皆が認めてくれた、私の愛し方。 この船では日常と化した……習慣?愛を確かめる為の儀式のようなものだった。 「お前な、せめて昼寝くらいさせてくれよ」 「いつでも殺しに来いって言ったのはゾロでしょ?」 呆れ口調で言うゾロに対し、私は楽しそうに言う。 首を傾げ、笑う私にゾロは溜息をついて何も言わなくなった。 「ゾロ、愛してる」 「……そうかよ」 「ゾロも愛してくれるでしょ?」 「……ああ」 その答えを聞いて、私は満足気に微笑んだ。 私の愛を全て受け止めてくれる貴方が好き。 例えそれがどれだけ歪み、狂っていると言われる愛でも。 殺そうとしても殺そうとしても、死なない貴方が好き。 私が愛の余り…貴方を殺そうとしても、決して貴方は殺されないから。 今まで私が愛してきた人は、皆私の愛によって殺されてしまったから。 「ゾロ、私も一緒にお昼寝してもいい?」 「いいけど、寝惚けて刃物取り出すのはやめろよ」 「ふふ、私だって、寝る時くらいは大人しくしてるわよ」 だけど貴方は、そんな私でも嫌わないで、こうして傍に居ることを許してくれる。 私を見てくれる。私を愛してくれる。 それがどれだけ嬉しいことか、貴方は知っているかな? 今まで、この愛の所為で……独りで、誰からも愛されなかった私を。 「それなら俺を愛せ」 「……え?」 「俺は絶対に死なないし、殺されねェ」 「………」 「それでも俺を愛せるなら、俺もお前を愛してやる」 ……貴方はそう言って救ってくれた。 その言葉で私がどれだけ救われたか…また人を愛してみようと思ったか。 貴方は死なないし、殺されない。 だから私も……安心して、貴方を愛することができる。 「……セーラ、」 「ん?」 「楽しそうだな」 「……うん。だって、ゾロを愛せているから」 そう言って、私はゾロの頬にキスをする。 …こんな愛し方しかできなくてごめんね。 だけど、こうして歪んでいる愛でも……確かに愛≠セから。 私に貴方を愛させてくれてありがとう。 私は幸せだよ。 「そうかよ。それなら、俺もよかった」 「本当?私、これからもゾロのこと、いっぱい殺そうとするよ?」 「やってみろよ。俺はお前なんかに殺されねェし」 「ふふ、絶対だよ?ゾロは、私が殺しても、死んじゃだめなんだから」 「……ああ、分かってる」 そう優しく笑って、ゾロは私の肩を抱いて寄り添う形にした。 私も頭をゾロの肩にもたれさせ……ひと時の幸せを感じる。 愛してるよ、ゾロ。 殺したい程に。逃がしてあげないんだから。 だからゾロも、ずっとずっと…私の、私だけの愛を受け止めてね。 L o v e or D e a t h (もう貴方には愛か死かしか選べないから、覚悟してね?) |