※悲恋



愛してる
この気持ちに偽りは無かったから。



*

「もう、行っちゃうんだよね」
「ああ。今まで悪かったな」


エースが私の家に来てから一週間。
初めは海賊だと知って恐ろしく思えたけど、この人を見ていると海賊ってそこまで怖くないようにも思える。
お酒が好きで、騒ぐのが好きで、笑顔が子供っぽい。
そんな貴方を見ていると、何故かあたたかい気持ちになる。


「本当に傷は痛まない?」
「おうよ。セーラが手当してくれたからな」
「ふふ、でも、深くなくてよかった」


エースはこの街に来て、他の海賊と喧嘩して怪我をしてしまった。
この街の住人は海賊に良い印象は持ってなく、むしろ逆の人が多い。
だから、私の家に呼んだ。
一人路地裏で荒れた呼吸をしているこの人を。


「ほんと、迷惑かけっぱなしだったな。飯までごちそうになっちまって」
「いいよ、そんな事。元気になってくれたんなら私は……」


そう、この人が元気になってくれたら私の仕事は終わり。
エースはまた、遠くの海へ行くんだわ。
私のこの気持ちなんてこれっぽっちも知らずに。
伝えようとも思わないけれど、
いつかこの日は来ると思っていたけれど、
それでもとても悲しくて辛い時。


「どうした?疲れてんのか?」
「…エースがたくさん食べるから、ね」
「そ、それを言われるとな……」


何も返せない、とでも言うように頭をかきながら苦笑する。
その仕草さえも、愛しく思える。
ふらっとこの街に現れたと思ったら
ふらっと私の恋心を奪っていった。
そんな貴方は海賊。
私なんかが一緒に居ることのできない
貴方の背中のマークが物語っている。

貴方は海賊。


「エース、」
「ん?」
「あの……、ううん、何でもない」
「そっか?はは、相変わらず変な奴だな」


言えない。
それが一番自分にとって罪だと感じながら。
それでも私は何も言わない。
どうせ貴方は私から離れていくから。
もしこの想いを伝えたとしても貴方は……。
私の傍には居られない。
だから言わない。
貴方を困らせたくない。
それが……愛、ってものかしら。


「エースはこれからどこへ向かうの?」
「ん?あー……北の方かな」


そう言って貴方は海の遠くを見る。
その向こうには何が待っているのか。
この街から出たことがない私には想像もつかないけど。
きっと、その先に貴方のやりたいことがあるのよね。
それを私が我儘言って奪うわけにはいかない。


「そっか……。エース、もう怪我はしないでね」
「ああ、もうそんなヘマしねェよ」


ほんの少しの時間だったけれど、
貴方に会えてよかった。
この気持ち、知ることができてよかった。
貴方を愛してよかった。
たった1週間だったけれど、楽しかった。


「じゃあ、俺そろそろ行くわ」
「うん。頑張ってね」


決して「またね」とは言えない。
私はここで諦めないといけないんだ。

エースの姿がだんだん遠くなる。
背中が小さくなっていく。
私は涙が出るのを堪えながら、その姿を見続けた。


「さようなら…………愛しい人」


この恋心は、
貴方がこれから越えていく波に乗せて、
お別れします。





この恋心とも、今日でサヨナラ
(だけれど、貴方の事は絶対に忘れません)