今までに貴方が、
私をこんなに心配してくれたことがあるでしょうか。



*

ああ、来た……。
女の子の、定期的に行われるあの痛み……。
そう、生理痛。
この痛みは、軽い子もいれば重い子もいる。
私はどちらかというと重い方で。


「………痛い」


朝、起きてからズキズキと痛みだすお腹。
薬があればいいんだけど、ウチの船長があれだから下手な薬を持たせてくれない。
ということで、痛み止めを貰うには船長を通じてじゃないと無理ってこと……。


「ああもう……最悪」


ローは他人をいじるのが好きだ。
かくいう私も、その被害者の一人なんだけど。
可愛く言ったら悪戯心。
悪く言ったら鬼畜だよ、あの人。
だから、生理痛だなんて……あんまり言えない。


「……まぁ、重いのは初日だけだし、我慢しよう!」


私は重い腰を何とか起こして、なるべくゆったりとした服を着て部屋を出た。


「おはよう」
「あ、ベポ!おはよー」


早々とベポに会ってしまった。
なるべく勘付かれないように明るく振る舞う。


「……そうだ、今、ローってどこに居る?」
「キャプテン?んー多分、あっちだと思う」


そう言ってベポは私の背後を指差す。


「そっか、ありがと!」


私は笑顔で指を差した方と逆へ行こうとした。
行こうとしたんだけど。


「あ、」


なんか気配感じる。
うん、むんむんに感じる。
なんかベポが「あ、」って言って私の背後を見つめてるんだけど。


「セーラ、何で反対を行こうとするんだ?」


声と同時に、後ろからローに抱きしめられた。
こんなスキンシップはいつものこととして、突然現れたこの状況に私はついていけない。


「!!ロー!なんで……」
「悪いか?」
「いや、悪くないけど……あ、私、これからちょっと用があるんで……」
「嘘だろ」
「っ何で分かるの!?」
「ほら、嘘だ」
「………」


にやにやしてる。
人をおちょくるのは止めてほしいと切実に思います。


「じゃあ……」
「!!ベポ!待って、見捨てる気!?」


クマのくせに空気を読んでそそくさと立ち去るベポ。
いや、そこは私の気持ちを優先して欲しい!


「っ!」


やばい……。
大きな声を出しすぎてお腹に響く……。
痛い。痛い。
我慢できなくて、私は少し前屈みになった。


「………」


そんな私の変化に気付いたのか、ローは急に私をお姫様抱っこした。


「っロー…?」
「黙ってろ。痛むんだろ?」


やっぱり気付いてくれてた。
喜ぶべきなのか……状況が状況だけに少し複雑だけど。
今はこの好意を借りた。


そのまま私はベッドのある部屋に運ばれて、ベッドに座らされた。
ローも近くの椅子に腰かける。


「で、どうしたんだ?」
「………」


言った方がいいのかな……。
でもちょっと言いにくい。
恥ずかしいよ……。


「腹痛か?」
「………」


私は頷く。
多分、ローは私を見つめてる。
普段あんな感じのローでも、こういう時は真剣になる。


「原因は何だ?何かに当たったか?」
「……ん…と…」
「言え。処方できないだろ」
「……り、つう…」
「聞こえねえ」
「せ…生理痛……」


言っちゃった。
私は恥ずかしさに思い切り俯く。
ローは今どんな顔してるんだろう。
どんな顔をしていても、今は恥ずかしくてまともに見れないよ!


「なんだ、生理か。それならゆっくり横になってろ」
「………え」
「聞こえなかったか?横になってろって言ったんだよ」


もっとこう…変な反応がくるかと思っていたけど、案外普通だった。
私は少し安心して言われた通り横になる。


「痛むか?」
「うん……ちょっと……」


ズキズキと奥からくる痛みに眉が寄る。
ローにお礼を言おうと、ちらっと視線を上げると、


「お前がこうしてる姿は面白いな」
「…ローの馬鹿」


お礼を言う気を無くした。
にやにやとサドっ気を出しているローにそっぽを向く。


「そう怒るな。いくら元気なお前でも、女のそれには勝てねえな」
「……だって、女の子だもん」
「ああ」


呟くように言うと、ローは手を伸ばした。
かと思うと、その手は私のお腹に服の上から優しく触れた。


「!……っロー…」
「気を楽にしろ。……さすってやる」


ローがこんな優しい言葉をかけるのは私にとって珍しい。
それに、ローがさすってくれてると痛みが段々と薄れてくような気がした。
目を閉じると、眠ってしまいそうなくらい……。
さすが、私のキャプテン。


「ロー……」
「ん?」
「気持ちいい」


少し笑って、お礼のつもりで言うと、


「……それは誘ってるのか?」
「え……えっ?」


予想外の言葉に私は焦る。


「いや、そんな意味じゃなくて!!……っいた…」
「動くな。……ったく、そういう反応だからからかいたくなるんだよ」
「え?」
「何でもない。今日は黙って寝てろ」


その後、ローは私が眠るまで優しくお腹をさすってくれた。
私が眠るのも早かったけど。
……こんなに貴方に優しくされたのは久しぶり。
なんだか、とっても心が安らいだ。

これじゃあ、キャプテン。
私、もっと貴方の事好きになっちゃうよ。





therapeutic drug of the gentleness
(優しさは大切な治療薬です)