恋人なのに。
貴方は冷たいよ、キャプテン。



*

「ちょっとあんたら、私を匿え」
「いきなり来て命令調かよ」


船からぶら下がって皆さんに挨拶をすると、緑色の頭をした剣士がびしっと言った。


「そう堅い事言わないで、ロロノア・ゾロ」
「なんだ、知っててこの船に来たのか」
「まっね。見ず知らずの海賊に匿えだなんて言わないわよ」
「俺たちからしたらお前は見ず知らずだぜ」
「まぁそう言わずに。ね、船長」
「俺は別にいいよ」


船長がアホ面で言うと、仲間全員から「ルフィ!」と怒られてた。
あーあー、オレンジの髪の女から拳骨食らってる。


「もうルフィ!ホイホイ変な奴を傍に置こうとしないの!」
「変な奴とは酷いねー泥棒猫ちゃん」


言うと、こっちを見てきっと睨んできた。
警戒深いね、もう。


「俺は大歓迎っすよー!ところで、お姉さんの名前は?」
「私はセーラだよ」
「セーラさん!なんて麗しいお名前!」
「パンツ見せてください」


ひゅーと竜巻みたいに早く寄ってくる黒足の人を笑顔で額を押さえて止める。
そして何のついでか、骨は軽くスルー。


「で、何の用なんだ、姉ちゃん。見たところ、偵察とかじゃなさそうだけどよ」 
「て、偵察っ?」
「んーばれた?」


ひょいと甲板に飛び降り、可愛いトナカイくんを撫でる。


「ちょっと家出だよ。少しの間でいいから居させて」


そうして、ごろんと芝生に寝転がる。
ていうか甲板が芝生だなんて凄い!


「家出?う、嘘ついてんじゃねーよ!」
「えー何で嘘って?」
「だってお前……ちゃんとした別の海賊だろ」
「あらら、これもばれてる」


あちゃーと片手で頭をかく。
そして起き上り、座った。


「そりゃー分かるぜ。その肩の刺青見たらな」


剣士くんが言った通り、私の右肩には海賊を象徴するドクロの刺青。
しかもこれは、


「トラファルガー・ローの海賊団所属なのね」
「その通り。流石ニコ・ロビンさん」


左手で頬杖をつくと、ニコ・ロビンは微笑んだ。


「へー、お前海賊なのか」
「まっね。で、少しの間置いてくれる?」
「別にいいぜ」


再び船長の気楽な言葉に、他全員が落胆としたようだった。
と、私も晴れてここに居られるようになったわけで。


「それで、家出してきた理由は?」
「あ、聞いてくれる?」


そこを待ってたのよねー。


「それがキャプテンがさー、私に冷たいの」


沈黙。
あらやだ、ちょっと同情の反応を期待してたのに。


「それがどうしたってんだよ」
「キャプテンと同じくらい冷たい反応どうも」


ついでにその呆れた瞳も同じだよ。


「んなこと言われてもなぁー俺たちにどうしろってんだ?」
「長鼻くん、私は愚痴を言いたいだけなの」
「うわー……はた迷惑な」


ぶつぶつ言ってる長鼻くんはまぁ置いておいて。
ちなみに、周りの人も呆れている人が多いけど気にしない。
私は構わず話を続ける。


「折角私がさーモーニングコールとしてキャプテンを起こしに行ったのに、何て言ったと思う?『うるさい』の一言だよ!?」
「へー」
「それで朝だから抱きついたら、ぺって片手で払われたのよ!?」
「妥当だろ」
「さっきだって、『キスして?』ってねだったらでこピンしてきて!」
「僕でよければその可愛らしい唇をもらいたいなぁ〜!」


上から長鼻、剣士、黒足くんが反応してくれた。


「あはは!お前おもしれェな!」
「どこが面白いのよ麦わら!」


こちとら真剣に愚痴っとんじゃい!
……失礼。


「思ったんだけど、貴女はそっちのキャプテンとどんな関係なの?」
「へ?」
「そういえばそうよねぇ。ただの海賊仲間じゃなさそうだけど」
「んー兄妹?」
「バカいってんじゃねーよ」
「バカって言った方がバカなのよサイボーグ!」
「あら、気が立ってるわね」


ロビンの言うとおり。
何でか分かんないけど、そうなっちゃう。


「兄妹ってのは冗談。私とローは、確かにただの海賊仲間ってわけじゃなくて、こいび「「「あ」」」ちょっと、『あ』って何よ『あ』って……ぐえっ!」


麦わらの一味の視線は私の少し頭上を見ていた。
そこには何があるかって?
ふっ。
私の首根っこを掴んでいる我がキャプテン、ローでした。


「お前……こんなとこで何してる」
「あ、探してくれたの?キャプテン」


首をローの方に向けてみると、影になってよく見えなかった。
……でも、これは錯覚かな?
ローの頬に、きらきらしたものが……。


「……麦わら屋、世話かけたな」
「いや、別に」


あ、無視?
しかも段々と身体が浮いている……。


「ちょっ…ロー!?」
「お前は黙ってろ。麦わら屋の一味、こいつのことは忘れろ」


なーんて、折角できた友達にローは言って私を抱えて船を降りた。
私は大声で「さよーならー」と言い、連れ去られるようにローと船を離れて行った。



「船長自らが、引っ張って行っちまったぜ……?」
「ふふ、愛されてるのね」
「あ?なんだって、ロビン」
「なんでもないわ」
「うー…セーラちゅわ〜ん…」





「で、お前は麦わら屋んとこで何してたんだ?」


えー……っと。
ローに連れ去られた私は、私たちがよくたまっている広場の切り株に座らされた。
ローも同じように(でもちょっと私のより高い切り株)座った。
そして、何だか怒られてる感じになってる。
ベポも、空気を読んで離れてっちゃうし……。


「ちょっと愚痴聞いてもらってただけなの」
「愚痴?」
「ローが冷たいから、麦わらの一味に話を聞いてもらってただけ」


つん、とローから視線を逸らすと、ローは少しむすっとした顔をしたような気がした。


「お前…頭大丈夫か?」
「ローに心配される程私の頭が悪かないわよ!」


私よりローの頭の方が心配よ!
愛するべき恋人のラブアタックを冷たくあしらうなんて……。


「大体、俺が冷たいとかぬかす前に、自分の行動を見直せ」
「へ?」
「俺は船長だ。その俺に、部下がいる前で『キスして』と言うお前の神経がイカれてる」


キャプテンが珍しくたくさん喋ってる。
そこまで人前でキスするのは恥ずかしいのかな。


「……キャプテンでも恥ずかしいことってあるのね」
「恥ずかしい?」
「これならちょっとスッキリしたかも!」
「おい、何一人で納得してる」
「あの時でこピンしたのは、人前でのキスが恥ずかしかったからで、私とキスをするのが嫌なわけじゃなかったってことでしょ?」
「………」


ローは何だかわざとらしい溜息をついた。
なになに?
なんか違うの?


「セーラ、」
「?なに?キャプテ……」


目も合わせずに私の名前を呟いたローに視線を移すと、腕が引っ張られて……。
視界がローいっぱいになる。
状況を呑みこむと、ローは私の許可なく舌を入れてきた。
……って、いつも許可なんて求めてこないけど。


「んっ……んん、ぁっ……」


ちょっとちょっと。
なんかいつもより激しいんですけど。
息をする間もない。
ロー……なんか、怒ってる……?


「っ、ん……う、」


苦しい、の合図として引っ張られてる方と違う手でローの胸板を叩く。
ローは横目でそれを見て、ぱっと唇を離した。


「はぁっ……何よ、ロー……急に、」
「俺がしたいと思ったからだ」
「何それ……」


私が頼んでもしてくれなかったくせに。
自分勝手なキャプテン……。


「俺がその気なら部下の前でも平気でキスしてやるぜ?」
「……さっきと言ってる事矛盾してない…?」
「俺は誰の頼みも聞かない。お前のもな」


くす、とローが笑う。
私は立ち上がったローを見つめた。


「俺にキスをねだるんなら、もっと可愛くねだってみろ」


あーもう、キャプテンには敵わないなぁ。
そんな勝気な顔されたら、私……キス、されたくなっちゃう。


「ロー……もう1回、キスして?」
「……上出来だ」


にや、と笑うと、ローはもう一度、深いキスを私に落とした。





冷たさの奥の独占欲
(どうしても、私は貴方の言いなりみたいです)