あんたは言ってくれた。
初めて会ったばかりの、ちっぽけな私に。
生きろ≠チて。



*

「ねぇ、」
「ん?」
「何してんの」
「日向ぼっこ!」


サニー号の甲板の芝生。
そこで大の字でルフィが寝転がっていた。
私はそれを見つけて、すぐに声をかけてみる。


「日向ぼっこ……?暑くないの?」
「今日はあったけェじゃんよ」
「……そう…かな…」


皆暑いからって、中で涼んでいるのに。
全く、ルフィの身体はよく分からない。


「セーラもするか?気持ちいーぜ」


にしし、とこれ以上ないてくらいの笑顔を私に向けた。
私は、それを見るとつられて笑ってしまう。

こんな風に笑うようになったのは、
全てルフィのおかげ。





あれは、1ヶ月前……


「………」


視界いっぱいに広がる、熱を帯びる赤。
その燃え上がる赤に、私は意識を奪われていた。
聞こえるのは、ばちばちと火のぶつかる音と人々の喚く声。
私はただ、茫然とそれを眺めていた。
私の故郷は焼けた。
全焼とまではいかなかったけれど、私の帰る場所は無くなった。
襲ってきた海賊たちの所為で。


「あちっあち!」


すると、後ろから声が聞こえたので振り向いてみた。
そこには見たこともない人物。
麦わらを被った少年。
服の裾が燃えていて、ふーっと息で消していた。


「あ?何やってんだ、お前」
「………何も」


その間抜けな声にやや冷たい視線を送り、再び炎に包まれる街を見た。
何もできずに、ただ見つめることしかできない自分に嫌気が差しながら。


「……これ、あいつらがやったのか?」
「そうよ。いきなり町にやってきたと思ったら、占領するとか言って、抵抗したら……火を飛ばして、」


両親も、友達も、みんな……。
私以外いなくなった。


「そっか……。お前、これからどうすんだ?」
「知らない。でも……生きる気には、なれない」


ぼーっと、めらめら燃える火を見る。
すべてなくなる。
わたししかいなくなる。
怖いとか、寂しいとかいうより、ただ信じられない。


「生きろ」
「っえ……?」


いつのまにか少年は、私の隣に立っていた。
ふっと少年を見上げる。


「生きてれば、楽しいことはある」
「……ないよ。私はもう一人だし…」
「笑え」
「…っ?」


わらえ?
普通に考えて、この状況で笑えと言えるこの人の心理がよくわからない。
それでも表情は真剣だった。


「なくしたんなら、もう1回探せばいいじゃねぇか」
「探す……?」
「ああ。意外と近くにあるもんだぜ」
「………例えば?」
「ほら、俺がいるじゃねぇか!ししっ!」


何の根拠もない。何の確信も得られない。
縁もなければ、今日が初対面の相手に。
なぜかこんなに安心感が抱けるなんて。
その笑顔に、少しでも心が満たされたなんて。


「俺と一緒に、笑って生きてこうぜ!」


差し出された手を、思わず掴んでしまった。
その手はなんだか暖かくて。
こんな状況なのに……未来が楽しみに思えた。


これが、私とルフィとの出会いだった。





「ん?寝てんのか?セーラ」
「寝てないよ。ちょっと思い出してただけ」
「ふーん。そっか」


深くは聞かずに、よかったな、と言ってくれる。
それが優しさなのか、無意識なのかはどうでもいい。
ただ純粋に嬉しい。


「……あったかいね」
「だろー?これならいー夢見れそうだ」
「ふふっ、そうだね」
「………」


横にいるルフィに笑いかけると、目が合った。
そして、じーっと私の顔を見つめてくる。


「ど、どうしたの?」
「セーラ、よく笑うようになったなーって」


そう呟くと、ルフィもにかーっと笑顔になる。
私は少し、頬が熱くなるのが分かった。


「なっ何よ、いきなり……」
「やっぱさぁ、笑ってる方がいいぜ、セーラは」
「そ、そんな……いつも笑ってる、ルフィに言われたくないよ……」
「ししっ、そっか?」


全く。
貴方の所為なんだからね。
私が笑うようになったのも
こんな気持ちを持つようになったのも
責任、取ってもらわないとね。





Live laughingly!
(笑って生きろ!)