「………っち」 今日もあの家に帰るかと思うと……だりー。 何が悲しくてババァの居る家になんか帰んねぇといけねーんだよ。 いつものように苛々しながら自分の家のドアに手をかけた。 「仁ちゃんーおかえり!」 ゴツッ!! 開く前にドアが勝手に開いた。 そしてそのドアは丁度よく俺の額に当たる。 「っつ……い、ってえなオイ!」 俺は自分の額を押さえながら前を見た。 すると、 「あれ?仁ちゃんどーしたの?そんなに怒って。折角我が家に帰ってきたのに」 俺の不機嫌さを当たり前と思ってるような顔で出迎えたのは…、 「っなんでてめえが居るんだよ桜花!」 桜花が言うには幼馴染≠ニいう関係のやつが目の前に居た。 「ほら、お夕食できてるよ」 そんなことはどうでもいい。 お前、ドアを開いた瞬間に聞こえた鈍い音は知らないのか。 「ん?そんな音したっけ?そんなことより、早く着替えておいでよー」 こいつ……そんなことで済ましやがった。 俺はフツフツと沸きあがる苛々を押さえながら、 「っおいババァ!何で家にこいつが居んだよ!!」 キッチンに向かってまずその言葉を言った。 「んー?あ、仁!おかえり」 「聞こえてんのか。何でこいつが居るんだ」 「あぁ、だって桜花ちゃん、仁の為にお夕食作ってあげたいって」 「だからって勝手に上がらせるなよ!」 「何よー。いいじゃない。私の家でもあるんだから」 「………」 「あ、ちなみに桜花ちゃん、仁の部屋も掃除してくれたから」 「はぁあっ!?」 何勝手にやらせてんだよ! 「あ、優紀ちゃん。大丈夫でしたよ〜。エッチな本とかはありませんでした!」 「あら、ほんと?」 「コラてめぇ、んなのもチェックしてんのかよ」 「しょうがないじゃん!仁ちゃんだって男の子なんだから、私がチェックしてあげないと!」 「ふふ、そうだよね〜。でも、無い方も心配だわ」 「っ……」 こいつら……好き勝手言いやがって。 「仁ちゃん、早く着替えて来てよー。あ、今日の着替えはベッドに置いておいたから」 「また余計なことを……」 こいつは何様のつもりだ? 「ほーらっ、行ってらっしゃーい」 無邪気に手を振る桜花。 ……俺は自分でも珍しいと思うが、溜息をついて部屋に向かった。 「……本当に整理されてるぜ」 元々ちらかすのは好きじゃねーが、いつもより綺麗になってやがる。 ……こうなると何かしてそうで怖ぇな。 「……あ!あいつ……」 引き出しに隠しておいた煙草がねぇ……。 代わりに、シガレットが置いてあった。 しかもその箱には紙が張ってあり、 『煙草は身体に良くないよ!仁ちゃんにはこれ!』 と書いてあった。 ……余計なおせっかいだ。 「………」 俺は仕方なくベッドに置いてある着替えを着てさっきの場所に戻った。 「あぁっ!仁ちゃん!」 早々、桜花が大きな声を上げる。 「あぁ?何だよ」 「本当に私が用意した服着てくれたんだ!」 着ないと思ってたのか、嬉しそうに言う。 「……出すのが面倒だったんだよ」 「嘘ー!きゃー嬉しいっ!」 一人で勝手にハイテンションになってやがる。 「良かったね、桜花ちゃん!」 ……ハイテンションな奴はもう一人居やがった。 「ったく……二人してうるせーんだよ」 「いいじゃない、何時もより賑やかで」 「えへへー。毎日こうやって来てもいいんだよ?仁ちゃん」 「来るな」 迷惑だ。 限りなく迷惑だ。 「あ、そうだ、私今日泊まってくから」 「……は?」 またしても勝手なことを言いやがる。 「私のとこ、今日は親二人とも遅いの。だから今日だけお泊り」 「いいでしょ?ほら、桜花ちゃんだし」 「……別に。俺には関係ねえ」 「やった!」 桜花は嬉しいのかガッツポーズをした。 ……よくわからねえ。 「……大体、泊まる場所が何でただの幼馴染の俺の家なんだよ」 桜花だったら友達の家とかあるじゃねーか。 「んー?だって、私……」 少し間を置いて、 「仁ちゃんのお嫁さんになるのが夢なんだもん!」 ………。 ここは、しばいていいとこなのか? 「……お前、冗談は他で言ってこい」 いや、他で言われる方も迷惑か。 「冗談じゃないもん!本気だよ?だからこーやって花嫁修業を……」 「何が修行だよ!」 「もう、仁。それまでにしたら?仁だって桜花ちゃんが居た方が嬉しいくせに」 ニヤニヤしてるババァ。 つか勝手に話に入ってくんなよ。 「うっせえ。俺はんなの思ったことねーよ」 俺は言い残すと風呂場に向かった。 「あれ?仁ちゃん、お夕食は?」 「後で食う。先に食っとけ」 俺はそのまま風呂に入った。 「もう、仁も素直じゃないんだから。桜花ちゃん、気を悪くしないでね?」 「いいですよ。仁ちゃんの性格は分かってるつもりですから」 「あら、そう?」 「はい!仁ちゃん、口ではああ言ってるけど……それは口で上手く言えない誤魔化しなんですよね」 「……うん」 「だから、ああ言われても嫌な気なんて全然しません!むしろ、嬉しいです」 「……そっか。ありがとうね、桜花ちゃん」 「?いいえ」 「それじゃ、桜花ちゃんに仁のことは任せようかな」 「えっ!いいんですか!」 「うん。桜花ちゃんみたいな子だと、仁もきっと……」 優紀ちゃんはあえて続きを言わなかったみたい。 ……よし。 じゃあ私もその期待に応えて花嫁修業を頑張りますか! 「仁ちゃーん」 「!?」 お風呂場に居る仁ちゃんにドア越しから声をかけた。 「なっ何でてめえ……!」 「ふふっ。仁ちゃん、お背中流しましょーか?」 「いらねぇよ!入ってくんじゃねえっ!」 「あははー。冗談なのにー」 私は逃げるようにお風呂場から離れた。 これ以上は踏み入っちゃだめだよね。 「……はぁ、なんで家なのにこんなに疲れなきゃいけねーんだ……」 俺は風呂場から出た。 「それは大変!私がマッサージしてあげようか?」 「だからなんでテメェが居るんだよ」 「あれ?忘れたの?今日はお泊り……「そういう意味じゃねえよ」 あー疲れる。 もう関わらない方がいいな。 「あー待って待って、仁ちゃん!」 早々と歩き始める俺の腕を掴む桜花。 「あ?何だよ」 「……あ、あのね、仁ちゃん」 なんかいきなり雰囲気が変わりやがった。 「さっきのっ…本気、だからね!」 「は?」 「だから、仁ちゃんのお嫁さんになりたいっていうの……」 少し顔を赤くしながら言う桜花。 ……こいつにも恥じらいってのがあったのか。 「……で、それがどうしたんだよ」 「私っ、頑張るからっ!」 「………」 「仁ちゃんが、惚れ直すくらい、頑張るからっ!」 ……その前に、俺はお前に惚れてるだとか言ったっけか。 「……あぁそうかよ」 ほんと、バカだぜ、こいつ。 そんなこと、本気で言いやがって。 「しゃーねえな。楽しみにしといてやるよ」 桜花を見ながら言ってやると、桜花は急に笑顔になった。 「うんっ!返品不可だからねっ!」 「うおっ、抱きつくな!」 「いーやーだー!」 こんな、馬鹿で子供みたいなやつ。 ガキの頃から一緒だった俺しか面倒見れねえだろ? 未来を見据えて (ったく、そんなに意気込まれちゃ、無視するわけにはいかねーからな) |