「ねーひらこりーん」
「……やー、その言い方止めろよ」
「えー?なんで?」
「わんの名前は『ひらこりん』じゃねー」
「でも、可愛いじゃん」
「わんに可愛いは必要ない」
「!………」

「何でそんな絶望的な顔するんだしよ」


可愛さは必要なと言った平古場を、えー、というように否定する桜花。


「だってひらこりん、女の子みたいに綺麗な髪だし……」
「だから、ひらこりんじゃねえ。それに、髪が綺麗だからって可愛いは関係ないやっしー」


何気に髪が綺麗なのは認めてます。


「ぶぅ」
「膨れても無駄ばーよ」


平古場は溜息をつく。
そう、さっきから言い合ってる彼女は幼馴染。
兼、片想いの相手でもある。
小さい頃から一緒だったからか、平古場の気持ちに桜花は全く気付いていない。
鈍感と言っても否定は誰もしない。


「……そんなに嫌だ?」
「う……」


出た。
桜花の上目遣い&うるうる目。
平古場は桜花のこの顔に弱い。
だからといってここで引き下がるわけにはいかない。
桜花は幼馴染として自分を見ている。
でも、自分は違う。
桜花に男≠ニして見てもらいたい。
そう思っている平古場は、桜花に変なあだ名で呼ばれるのを嫌がっていた。


「うーん……じゃあ、ひらこりんの新しい呼び名考えないと」
「……(何で普通に名前で呼ばないんさー…)」


平古場は心の中でショックを受ける。


「そうだ、りんりん、今日の部活は?」
「ねえよ。っつかりんりんも止めろ」


さっきのひらこりんより嫌な顔をした。


「えー…可愛いのに」
「(だから可愛いはいらないやっしー!)」


言いたくても言えない複雑な気持ち。
平古場の苦労は絶えない。


「あ、そうだ!今週末ね、私の親が旅行に行っちゃうの」
「(何か話変わったさー)……そうなのかよ」
「私ね、一人になっちゃうから……凛の家に行ってもいい?」
「!!!???」


平古場はその一言にぼっと赤くなった。
名前を呼ばれたことの嬉しさと驚き、理性などが複雑に飛び交う。
……って理性は飛ばしちゃだめです。


「ん?凛……顔赤いよ?」
「そっそんなことないやっしー!」
「嘘だぁ。絶対赤いもん!」


絶対に赤い、と平古場の顔を覗き込んで見る桜花。


「…ふ、ふらー!そんなに顔近づけるな!!」


顔を真っ赤にしているので本気で言っているのか疑わしい。
だが、それにも気付かない天然な桜花。
あまりの恥ずかしさに逃げてしまった平古場を首を傾げて見つめていました。


「?どうしたんだろう……。…あ、凛に答え聞いてない」


今週末の事。
桜花は思い出して平古場の後を追いかけようとするが、


「まぁ待てよ。しばらく一人にしてやれ(…色んな意味で)」
「…?あ、裕くん」


一部始終を見てしまっていた甲斐が桜花の肩を押さえて止めた。


「裕くん、凛がね、ひらこりんとかりんりんじゃ怒っちゃうから、凛って読んだら今度は真っ赤になっちゃったんだけど……どうしてだろう?」
「……さぁな。嬉しかったんじゃねえの?」


心の中では凛に同情している甲斐。


「(ここまで鈍感だからな……。凛、頑張れよ)」


半分真剣、半分面白そうに心の中で言う。
そして、後で平古場から話でも聞いてやろうと甲斐は思った。





鈍感な君は時に恐ろしい
(思ったより、名前ってくるさー……不意打ちも反則やっしー……)