諦めを露わにしたライと悟飯だったが、


『おい、こら!諦めるなんてねえだろ悟飯!ライ!』
「「!!」」


突然聞こえた声に、二人は目を見開き辺りを見回した。


「お…おとうさん!?ま、まさか…ど、どこ!?」
「おとうさん…っ!!」


必死に姿を探すもその姿は見つかるはずもない。
悟空はあの世から、界王の力を借りて話しているにすぎなかったからだ。


『おめえもセルみてえにおもいっきりかめはめ波をぶちかましてやれ!そうすりゃ必ず勝てるさ!絶対だ!』


力強い悟空の言葉を聞くも、二人の表情は暗いまま変わらない。


「だ、だけど今のボクは…片方の腕しか使えないし、気だっても…もう半分以下に…」
『大丈夫、勝てる!自分の力を信じろ!傍にはライだっているんだろ!』
「おとうさん…あ、あたしなんて、何の力にも……」


ライは悲しそうに眉を下げ、弱々しく吐く。
だが、悟空の力強い言葉は変わらなかった。


『何弱気になってんだ!おめえらしくねえ!ライ、おめえは悟飯を支えてやるだけでいいんだ。それだけで、十分力は伝わる!』
「っ………」


相変わらず優しい言葉を言う悟空に、ライは泣きそうに顔を歪めた。
こんな時でも、悟空は自分を蔑ろにするようなことは言わない。
ライはそれを優しさだと思っているが、悟空は本気で、ライの力も必要だと思っていた。


『最後に見せてくれよ…オラたち二人でつくった力を!悟飯とライの二人が生み出す力を!』


二人の背中を押すような悟空の言葉を聞き、悟飯は右手で拳を作った。


「わ…わかりました…やれるだけのことはやってみます…」


それを聞くと、ライも表情を険しいものへと変えた。


「あ、あたしも……精一杯、悟飯を支えてあげる……!」


雰囲気の変わった二人の言葉を聞き、悟空はあの世でそっと口元に笑みを作る。


『がんばれ!このまんまやられたんじゃオラたちは犬死にだ。カタキを討ってくれ!』
「……ごめんなさい、おとうさん…ボクが調子に乗ってしまったせいで死なせてしまって…」
「………」


応援する言葉を言う悟空に、悟飯は地面を見つめたまま謝罪の言葉を述べる。
静かに言う悟飯の言葉を聞いて、ライも悟飯と同じ地面を見つめた。


『気にすんな!オラは、こっちで界王さまとかと楽しくやっからよ!おめえたちは地球で楽しく生きるんだ!わかったか!』
「「は、はい!!」」


悟空の声援を受け、ライと悟飯は目つきを変える。
そして二人の気がリンクするように共鳴し、悟飯とライの周りを大きな気が包みこむ。
その変化に、セルや見ていたピッコロたちも注目し始めた。


「「か…」」


セルを真っ直ぐ見据え、二人は声を合わせて呟く。


「「め…」」


悟飯は片腕1本で、ライはそんな悟飯の背中を両手で支える。


「「は…」」


二人の目にもう迷いはなかった。父の後押しを受け、あとはもう自分たちの力を信じるのみ。


「「め…」」


力を溜め始めた悟飯の全身から気が目に見えるようになる。
その勢いにライは目を閉じかけたが、ぐっと堪えて強く悟飯の背中を支える。
そして自らの気も、悟飯の気に溶け込ませるように放った。


「ふん…」


そんな双子の姿を見ながらも、セルは余裕そうに鼻を鳴らす。
そうして対峙する3人を遠くから見ていたピッコロは、


「だ…だめだ…!やはり勝てない…!悟飯たちの気の方が、よ…弱い…」


双方の気を比べて、そう声を漏らした。


「くたばれーーーっ!!!」


そしてセルの方が先にかめはめ波を撃った。
その巨大な気は真っ直ぐ悟飯とライへと向かう。


「「だああーーーっ!!」」


悟飯とライも負けじと、かめはめ波を放った。
かめはめ波を撃つ衝撃に耐えられるよう、ライは必死に、必死に悟飯の背中を支えながら気を注ぐ。


「や、やばいぞっ!!はなれろっ!!」


二つのかめはめ波がぶつかる直前、ピッコロが叫び促す。
そして互いのかめはめ波が凄まじい勢いでぶつかり合った。


「うわっ!!」


その場から離れようとしたピッコロたちだが、その衝撃は大きく、その身はふっ飛ばされる。


「あああっ……!」


ぶつかり合っている場所だけではなく、遠くの岩までも震え、砕け、飛ばされていく。
そのため、間近にいるライの衝撃は凄まじいものだった。
辛そうに悲鳴を漏らす。支えているだけのライでも重い衝撃をその身に感じている。
実際にかめはめ波を撃っている悟飯は、更に大きな衝撃を受けているのだと、ライは悟飯の背中を見つめた。


「ぐっ、ぐぐぐ…!!」


負傷し片腕だけの悟飯。多大なパワーアップを遂げ、両腕で撃っているセル。
どちらが有利かなど考えるまでもない。


「ご、はんっ……ま…け、ないで……!!」


セルの強いかめはめ波の衝撃が振動となって全身に伝わる。
それでもライは悟飯の傍から離れなかった。
必死に、痺れつつある両腕で悟飯の背中を支える。


「ぎぎぎぎぎぎ……!!」


悟飯も、負けないと、引かないとばかりに力を入れ続ける。


「や、やはりだめだ…!完全に押されている…!」


その様子を遠くの宙で見ていたピッコロはそう呟いた。


「くっくっく、さあ終わりだ。終わりにしてやる!!」


言うと、セルはまた強く押す様に気を注ぐ。


「うぐうっ…!」


再び痺れ出す両腕。
その重さに顔をしかめると、再び悟空の声が聞こえた。


『しっかり前を向け、ライ!!少しでも気を抜いたらやられちまうぞ!!』
「っ……おと、さ……」


その声を聞き、ライははっと気合いを入れ直し、気を放出させた。


『こらえろ!こらえるんだ悟飯!!まだ、おめえは力の全部を出し切ってねえぞ!爆発させろ!力を!!』


そして今度は悟飯の方へと悟空は声をかける。


「ぜ…全力でやっています……!も…もうこれ以上は…」
『おめえは、地球へのダメージを心のどこかで考えてるんだ!気にするな!ダメージはドラゴンボールで元に戻る!』


苦しそうに耐えながらかめはめ波を撃ち続ける悟飯の呟きに、悟空は何も考えるなとアドバイスを言うように叫ぶ。
地球の事を考えている余裕などなくていい。
今は目の前のセルを倒すことだけに集中するんだ。
ライも心の中で言葉を響かせ、ぐっとセルを睨んだ。


「さらばだ!!」


対するセルは、もう決着をつけようと大きく言い放つ。
が、邪魔をするように横からセルの顔面めがけ、エネルギー波が飛んできた。
何事かとセルがそちらを睨むと、超サイヤ人の姿ではないものの、殴られた左腕を支えながらセルに攻撃を仕掛けたベジータが肩で息をしながら飛んでいた。


『いまだーーーっ!!』


ベジータの攻撃により、集中が途切れたセルの隙を狙い、悟空は叫ぶ。


「うあーーーーっ!!!」


その後押しを受け、悟飯も思いきり叫んで気を押し出した。


「っっ……!!」


もう最後だ。これが、最後のチャンスだ。
そう感じたライも、力の限り悟飯を支え、気を注ぐ。
悟飯とライの気は互いに溶け合い、一つの大きな気となって悟飯の腕を伝い、セルへと向かって行く。


「ぎえええ……!!!」


それはセルの撃ったかめはめ波を押しのけ、セル自身にまで届く。
悟飯とライの全力を出し切ったかめはめ波を受け、セルは悔しそうにしながら、跡形もなくその姿を消滅させた。


「はあっ、はあっ、はあっ」


セルが消滅したことを知り、悟飯は宙に浮かびながら大きく肩で息をする。
そしてかめはめ波を撃った…震える右手を、ライは優しく包みこんだ。


「悟飯…こ、今度こそ……終わった、よ……」


ライも肩で息をしながら、超サイヤ人の姿から戻った悟飯を見つめる。
そして身体に力の入らなくなった悟飯が地面に落ちて行くのを、ライも後を追うようにして降りた。


「悟飯……」


仰向けになり倒れる悟飯を見て、ライは目元に涙を浮かべる。
そして悟飯の右手を握ったまま小さく名前を呟いた。


「ありがと……」


地球を救ってくれて。セルを倒してくれて。父のカタキを討ってくれて。
一言だが、一言では詰め切れないほどの想いを交えた感謝の言葉を、ライは囁くように言った。
それを聞いて、悟飯も…ほっとしたのか、ようやく緊張の糸が解けたように口元に笑みを浮かべることができた。


×