地球では、人造人間18号を抱えているクリリンに、ベジータがどうするつもりだと言い、殺してしまえと吐き捨てる。
それを聞き、それほど悪い奴じゃないとクリリンはフォローするように言った。
その直後にそれは起こった。


「!?」


悟飯の背後から、突然突風が起きる。
声を上げて泣いていたライも、悟飯と共にその風に煽られ体制を崩す。


「なっ、なんだ!?」


ピッコロが叫び、突風が起きる中心を見る。
ライも涙を引っ込め視線をそちらに向け、悟飯はそんなライを守るように前に立ち、目を凝らしてその光景を見つめた。


「こ…こ…この気は…」
「ま、まさか…」
「…そんな……」


ベジータ、トランクス、ピッコロが慄きながらそれぞれ呟く。
ライも気を感じ取ったのか、目を見開き唇をかたかたと震わせた。
そして砂埃の中から何やら光線が出てきて、それは真っ直ぐトランクスの胸を貫いた。


「が…がはっ」


その勢いで後ろに飛ばされ、そのまま仰向けに倒れるトランクス。
それを見て、ベジータは目を見開き言葉を失った。
はっと振り向いたライも、その光景を唖然と見つめていた。
そしてトランクスに攻撃をした人物、砂埃の中心から姿を現したのは、完全体のセルだった。


「………!!」


それを見て驚愕する一同。
なぜだと震えながら呟くヤムチャに、セルは笑いながら説明した。
セルにとっても嬉しい誤算が起きたのだと。
セルには頭の中に小さな核があり、その核が破壊されないかぎりは再生することができるのだと。
自爆をしたときに幸運にも、その核が傷つかずに残ったため、こうして蘇ることができたらしい。
さらに、18号抜きでも完全体の姿になれるまでのパワーアップも果たしていた。
それは生死の狭間から救われた時に大きく力を上げるサイヤ人の細胞がそうさせたのだとセルは語った。
悪夢はそれだけではなく、セルは悟空の瞬間移動も身につけ、大幅パワーアップをしてこの場に戻ってきていた。


「そ……ん…な……」


セルの話を聞いて、ライは弱々しい声で呟く。
せっかく悟空がその身を犠牲にしてまで守った地球なのに。
セルは復活し、しかも以前よりもパワーアップをして戻ってきている。
まさに絶望的だった。絶望しか見えなかった。
震える手を伸ばし、悟飯の服を掴む。


「……おねえちゃん、ボクから離れてて……」


そんなライに気付いた悟飯は、セルを睨んだままライに言う。
言葉は耳に届いているも、絶望で身体に力が入らないライは突っ立ったまま、その場を動けずにいた。


「っライ……!」


それに気付いたピッコロが後ろからライを抱き上げ、悟飯から離れる。
そのすぐ傍では、最初にセルの攻撃を喰らってしまったトランクスの名前を呟くベジータの姿があった。
そして悟飯は目を見開き、再び超サイヤ人2へと覚醒させた。
にやりと口角を上げ、セルを見つめる。


「……ん?なにがおかしい…気でもふれたのか?」
「ボクの思い上がりで死んでしまったおとうさんのカタキが討てて嬉しいんだ。きさまはぜひ、この手で殺したかったと思っていた……」


余裕そうに尋ねるセルに、悟飯は拳を握って告げる。


「ふん…それはどうかな?今度はそううまくいくとは思えんがな」


だがセルは余裕を保ったまま、以前のように嫌味ったらしく話す。


「悟飯……」


悟飯から離れた位置でピッコロから降ろされ、ライはじっと悟飯を見つめる。
ライは悟飯を見ていたために気付かなかったが、悟飯とセルが対峙している間、ベジータはずっと…セルに殺されてしまったトランクスを見つめていた。


「ト………トランクス………」


眉を寄せ呟くと、ベジータは両手で強く拳を作る。


「くっそおーーーっ!!」


そしてそう叫ぶと、地を強く蹴りセルに向かって行った。
その行動に誰もが驚き、止める言葉さえ出せなかった。
超サイヤ人に変化したベジータは、その勢いのままセルに向かって全力のエネルギー波を放った。
それは凄まじい勢いで、あっという間に辺りは大爆発が起こったかのように砂埃が舞う。


「うおおおおおっ!!」


しかもそれは一度だけではなく、ベジータは何度も何度もセルに向けエネルギー波を放った。
ズドドドという低い轟音が辺りに響く。
ライはピッコロに身体を支えられながら、その被害を受けないために防御の体勢をとった。
そしてベジータが攻撃の手をやめたが、


「あ!!」


砂埃の中から無傷なセルが現れ、悟飯はそう声を漏らし、ベジータもはっと驚いた。
そしてセルはベジータを殴り、遠くに飛ばされたベジータは大きなダメージを受けてしまったのか苦しそうに呻いていた。


「消えてろベジータ!」
「くっ!!」


そう言ってとどめを刺そうとするセルを見て、悟飯は咄嗟に身体が動く。
倒れているベジータを守ろうと飛び、自らの左腕にセルの放ったエネルギー波を喰らってしまった。


「うあっ!!」
「っ!!」


その衝撃は離れたところにいたライたちにも向かった。
ライたちは何とか全員受け身を取り無事だったが、


「う………うぐぐ…」
「おやおや……こいつは思わぬ収穫だったぞ」


ベジータを守った悟飯は、左腕に重傷を負った。


「ご…悟飯…!」
「悟飯!」


それを見たピッコロとライは悟飯の名を叫ぶ。
そして居ても立ってもいられなくなったライは、がくがくと震える足を必死に動かして悟飯の元へと向かった。


「ライ!」


止めるピッコロの言葉は聞こえていない振りをして、ライは左腕をだらんと下げた悟飯の身体を支える。


「悟飯…しっかりして!」
「っぐ……」


なるべく傷には触れないよう身体に触れるが、それでも悟飯は痛みに顔を歪めた。


「悟、飯っ……」


泣きそうな顔でライは痛みに耐える悟飯を見つめる。


「ベ、ベジータのバカやろう…!トランクスなら、ド、ドラゴンボールで生き返ったんだ…!」


ベジータの行動が結果的に、悟飯に怪我を負わせてしまった事態になりクリリンは悔しそうに眉を寄せ呟いた。
そして寄りそう双子の姿を見つめる。


「お遊びはもうせんぞ…すぐに終わらせてやる…」


そして地面に降り立ったセルは悟飯を見て言い放った。
思った以上にセルのパワーが上がっており、悟飯はどうすればよいのか思案する。
あれだけの深いダメージを負っては圧倒的不利だと思ったピッコロが、仙豆はないのかとクリリンに言うが、もうすでに全部使ってしまった後だった。
ライは悟飯を助けたいと思うも、今自分がセルに向かったところで邪魔になってしまうことは明らかだった。
むしろ悟飯に余計な心配をかけることになり、二次災害になることも予想される。
ライはどうしようもないこの状況を悔しく思い、強く唇を噛んだ。


「おまえたちを許しはせんぞ…」


そう考えている間にも、セルは呟きかめはめ波の構えをとる。
そして巨大な気を溜めると、


「地球ごと消えてなくなれ!」


そう言い放った。
地鳴りのように響くセルの巨大な気を感じ、悟飯は悔しそうに震え眉を寄せる。
そして心の中で謝った。悟空に向けて。
守れたはずの地球を護れない、無念さを感じながら。


「な……なんてことだ……こ…このオレがお荷物になるとは…」


自分を庇って悟飯が負傷したと気付いたベジータは、身体を少し起こしながら悟飯を見る。
気がついたのかとはっとライはベジータを振り返った。


「す…すまなかったな…悟飯…」


そして謝るベジータの言葉を聞き、悟飯とライは驚いた。
あのベジータが謝るなんて。
もう絶対にどうしようもないと悟っているのだと、悟飯はそう思った。


「ベジータさん……」


ライも同じように、珍しいと思ったのと同時に、どうしようもない終末感を感じた。
もう抗えない。どうしようもできない。成す術は全て無くしてしまった。
悟飯の身体を支えながらライは、切なそうな表情をセルに向けた。


「く………くそ………くそーーーっ!!」


この絶望的な光景を見つめることしかできずにいたピッコロは、腹の底から叫んだ。
ライの切なそうに歪められた横顔を見つめながら。


「う…恨むぞ…オ…オレたちの力のなさを…!」


そう憎々しげに呟くピッコロだが、相対してセルの気は益々膨れ上がるばかりだった。


「ふはははは、どうだ!すでに、地球どころか太陽系すべてが吹き飛ぶほどの気力が溜まっているぞ!」


大声で笑いながら言い放つセルの言葉を聞き、悟飯は自らを優しく支えてくれるライを振り返る。


「おねえちゃん…ここは危ないから……ピッコロさんたちのところに、戻って……」
「……どこにいたって同じだよ」


弱々しく言う悟飯の言葉に、ライは迷いのない言葉を返した。


「この地球のどこに逃げても……結果は変わらない。それならあたしは…悟飯の傍にいる。おねえちゃんとして、家族として……」


もうすでに覚悟を決めているライの言葉を聞き、悟飯は切なそうに眉を寄せた。
ライの判断。姉として、家族としての最期の判断。
それを身に染みるように感じた悟飯は、ゆっくりとセルを見つめた。


「どうした孫悟飯!そら!最後の抵抗を見せてみろ!」


挑発するようにセルは声を荒げるが、悟飯は冷静だった。


「……やれよ……抵抗したってムダなことぐらいわかっている…ざ…残念だ…おまえは、ボクが木端微塵にしてやりたかった…」


隣に居るライと同じく、悟飯も覚悟を決めていたためだ。


「ふっふっふ…つまらんな…あっけない幕切れだった……では遠慮なく、すべてを闇にしてやるか…」


すでにかめはめ波を撃つ用意は整えてあるセルは口角を上げながら言う。
それを聞き、もう本当に終わりだと思ったライはぐっと目を閉じた。


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