「なぜだ…あのかめはめ波ならまちがいなく当たっていた…きさまは以前にもとつぜん表れ消えたことがある…」


怪訝そうに呟くセルに、悟空は瞬間移動だとあっさりばらした。
やっかいな技だと理解を見せるセルに、今度は悟空が口を開いた。


「オラも聞きたい…。オラが空に飛び上がらなければ、そのままかめはめ波を撃って地球を破壊していたか……?」


その問いに、セルはニヒルな笑みを見せた。


「さあどうかな…だが、きさまは飛び上がるしかないとわかっていた…」
「なるほどな……おめえはアタマもよさそうだ」


悟空も理解したのか、そう言いセルを見据えた。


「だがこれだけは言っておく…わたしは地球を破壊することなどなんとも思っていない。ただ楽しみが減ってしまう、それだけだ…」


あっさりと言い放つセルの言葉を聞き、悟空は眉を寄せ無言でセルを見つめた。
そしてセルが構えを深くとったことに驚いた瞬間、セルは高速で悟空へと向かい顔面を殴った。
すぐに反撃する悟空だが、セルには避けられ逆に攻撃を喰らってしまう。
地面にへばりついた悟空はすぐに地面を叩くようにして自身を宙へと浮かばせる。
だがそれも背後に現れたセルによってまた地面へと叩きつけられた。


「わたしもスピードには自信があるんだ。瞬間移動とまではいかないがね」


そして立ち上がった悟空の背後で余裕そうに告げるセル。
再び二人の攻防が繰り広げられ、いつの間にか二人の姿は宙にあった。
ライは心配そうにその攻防を上空を見上げ見つめる。
すると宙に浮いている二人は、戦うのをやめ、何か話している様子だった。
何事だろうと不思議そうに、必死に顔を上げているライ。
そのすぐ後、悟空はこちらを振り返り、


「みんな、リングから離れろーーっ!」


と大声で叫んだ。
その悟空の奥では、リングへと手を向けているセル。
何をやろうとしているのか大体の予想をつけた皆は急いでリングから離れた。
ライも同じように急いでリングから離れる。
そして、セルの手によりリングは跡形もなく破壊された。


「ひゅう〜〜、あ、あぶねえ……!」


間一髪逃れることができた皆は、大きな空洞となった地面を遠くから見つめる。
サタンやアナウンサー、カメラマンは16号が守ってくれていたようで、これによる怪我人は出ることはなかった。


「どうして急に…」
「……ヤツのことだ。リング上という制限された試合が嫌になったんだろう」
「ふん…最初からそんな小賢しいルール、なしにすればよかったんだ…!」


目をぱちくりとさせていたライだが、ピッコロの言葉と憎々しげに言うベジータの態度を見て、状況をなんとなく理解した。
リング上という、決して広いとは言えないフィールド。
それに伴い、場外負けというルールまであった。
悟空との戦いを楽しんでいる様子だったセルは、その自分で作ったルールを自ら破壊してしまったのだと。


「もう、場外負けはない……」


この大地全てがリングになったと理解したライはそう呟いた。
そして遠くから、広い大地の中対峙する悟空とセルを見つめる。
今度、先に動き出したのはセルだった。
広さをふんだんにつかった大胆な攻撃、またリングが壊れるという心配もなくなったためか、大量のエネルギー波を悟空へ向ける。
その砂煙の中から飛び出してきた悟空はすでに構えを取っており、


「か、め、は…」


と力を込めていた。


「ふはははは!きさまにその位置からかめはめ波は撃てはせんぞ!撃てば地球そのものが大変なことになる!」


かめはめ波の構えを見ても、できるわけがないと踏んでいるセルは高笑いをして見上げる。


「め…」


だが、悟空の表情が真剣なものだと感じ、途端に目を見開く。


「お…おい…!」


セルは驚きの表情のまま、しばらく悟空を見上げた。
その様子を遠くから見ていたライたちも、悟空が何をしようとしているのか気付き始めていた。


「かめはめ波だ…!悟空のやつ、フルパワーでかめはめ波を撃つつもりか!?」
「う、撃つわけないさ…!あんな位置関係で撃ったら、こ、この地球がぶっこわれちまうぞ…!」


ピッコロの言葉に、クリリンが口元をひくつかせながらもそう答える。


「で、でもっ……」


悟空の表情は真剣そのものだった。
そのことを感じ取ったライは、不安を心に募らせる。


「う、撃つつもりだ…!」


ベジータも悟空の真剣さを悟り、そう叫ぶ。
だが次の瞬間悟空の姿は宙から消え、セルの目の前に現れる。


「しっ、しまっ…」
「波ーーーっ!!」


そしてそのまま至近距離でかめはめ波を撃った。
間近で受けたセルは身体が粉々になり、悟空の目の前では胴体と下半身しか残っていなかった。
その光景を見たヤムチャと天津飯は、セルをやっつけたものと思い拳を握る。


「や、やった!やったぞっ!」
「そうか!瞬間移動があったんだ!」
「おいっ、やったな!ははーっ!」


嬉しそうにヤムチャが声をかけるが、視線の先にいるクリリンとトランクスの表情は浮かない。


「な、なんだよ…う、嬉しくないのか?」


疑問に思うヤムチャだが、ライもクリリンたちと同じように厳しそうな表情で悟空を見つめた。
ちらりとピッコロを見上げてみれば、ピッコロは不愉快そうに眉根を寄せている。


「気をつけろ悟空ーーっ!セルはたぶん復活する!」


その言葉に驚くヤムチャや天津飯同様、悟空も目の前のセルを見つめる。
下半身だけとなったセルの身体はそれだけの姿でも立ち上がる。
驚く悟空の目の前で、セルは元の状態に戻る。


「そういや再生できるんだったな…」
「そういうことだ。ピッコロのようにな…」


セルの姿は元通り再生してしまったが、今のでセルもずいぶん気が減ってしまっていた。
そう指摘した悟空だったが、悟空もまた、今の攻撃で息があがってしまっていることをセルに指摘された。


「忠告しておくが、おなじ手は二度と通用せんぞ。ムダな攻撃で体力を減らしてつまらん戦いにだけはするな」
「わかってる!」
「そうかな!?」


口角を上げ、余裕の表情で言うセルに対し、悟空は再びパワーを溜めながら言う。
セルも同じように気を溜め、二人の攻防戦は始まった。
しばらく殴り合いを続けていたが、悟空が遠くからセルに連続したエネルギー波を放つ。
あまりにも大きなパワーが連続して向かってくるため、セルはその威力に押され始めた。
そして、


「ずあーっ!!」


何やらセルの身体が光ったと思えば、セルの回りに光の膜が現れる。
それはとてつもなく広い範囲のもので、遠巻きに二人の戦いを見ていたライたちの目の前にまで押し迫っていた。
セルがその光の膜の真ん中にいるのを見て、これがバリヤーなのだとライは気付いた。
それは悟空も同じようで、ちぇっと表情をしかめる。
バリヤーを解き、息を荒げている悟空を見てセルは仙豆と食べるように促した。


「あ、あいつのいうとおりだ!悟空さんに仙豆をあげて全員でかかれば今のセルならきっと、倒せる!」


そのセルの言葉を聞いたトランクスがクリリンを見つめ言う。
だがクリリンは口元を固く引き結んだまま、悟空をじっと見つめていた。


「クリリンさんっ!はやく仙豆を…!」
「だまってろトランクス!」


何も言わないでいるクリリンにトランクスは焦って言うが、遠くからベジータがそう声を荒げた。
その声に驚き、ライもはっとベジータやトランクスたちを見る。


「てめえにはサイヤ人の誇りがないらしいな。そんな勝ち方をするぐらいならあいつは死を選んだほうがマシだと思うだろうぜ…今のあいつは地球のためなんかに戦ってるんじゃない。そいつを覚えとけ…」
「…………し…しかしこのままでは…」
「やられるだろうな、確実に…」


眉を寄せ言うベジータが悟空の気持ちを代弁するように言う。
だがトランクスはそれを素直に納得するわけにはいかないのか、深刻そうな表情でベジータを見つめた。
そしてベジータもこのままでは悟空がやられると予想しているのか、トランクスから視線を逸らして呟く。
ライはその言葉を聞いて、切なそうに眉を寄せて俯いた。


「ア…アタマにくるが認めてやる……オレは、あれだけ特訓したがカカロットを超えられなかった……あ…あのヤロウは天才だ……だが、セルはそんなカカロットを1歩も2歩もさらに上回ってやがるんだ……」


ベジータはセルを見上げ、苦々しく言った。


「だ、だったらどうしろというんですか…!?黙って、み、見ていろと…!?」
「てめえも言ってただろ!あいつには何かきっと作戦があるはずだと。そいつに期待するんだな……」


その言葉に、トランクスはもちろんクリリンたち全員が押し黙った。
ライは伏せていた顔を上げ、悟空を見つめる。


「おとうさん、大丈夫、だよね……」


あれだけ強くなったのだから。
自分に、大丈夫だと言ってくれたのだから。
目に見えて劣勢だと思えるこの状況を、変えてくれるよねとライはすがるように悟空を見つめた。
だが、その思いとは裏腹に悟空の身体を覆っていたオーラはなくなり、少し前と同じ、穏やかな超サイヤ人の姿に戻った。
そして、


「まいった!」


そう放たれた一言を聞いて、ライは驚きで目をまん丸に見開いた。


「降参だ!おめえの強さはよーくわかった!オラはもうやめとく」
「!!」


そう軽々と言ってのけられた言葉に、対戦相手であるセルすら驚き悟空を見つめた。


「なっ、なにっ!?」
「こっ、降参…っ!?」
「そっ、そんな…!」
「なっ、なにを…なにを考えてるんだあいつは……!!」


ベジータ、クリリン、ヤムチャ、ピッコロはそう声を漏らして驚く。
そしてその場にいた全員の視線が悟空へと向けられた。


「なん、で……?」


ライも悟飯の隣で、ぽかんとした表情で力無しに呟いた。


「…………孫悟空…そのコトバの意味することがわかるか?…」


未だ宙を浮くセルは、長く間を置いた後にそう口を開いた。


「セルゲームで戦う者がいなくなれば、この地球の人間どもは一人残らず死ぬことになるんだぞ」
「勘違いするな。戦うヤツがいなくなったわけじゃねえだろ」
「おなじことだ。ベジータやトランクスでは、力を上げたとはいえきさまより劣っているはず…」


悟空が戦うのをやめるのを引き止めるように、セルは冷静に言う。
戦いを楽しんでいるセルにとって、強い者と戦うのが今のところの目的なのだから当然と言えた。


「じゃあ次に戦うヤツをオラが指名してもいいか?」
「きさま、ほんとうに降参する気か……!」


セルに言われても、悟空は自らが身を引くという意思を変えなかった。
少々驚いているセルは眉を寄せて悟空を見下げる。


「ど…どういうつもりだあいつは…!か…勝てるヤツなどおらんぞ…!」


悟空の言動の意味が全く理解できないベジータは、眉を寄せ汗を浮かべながら言う。
ライも驚きで言葉を失ったままだが、そっとベジータを見つめた。


「(や、やっぱりベジータさんなんじゃ……おとうさんも、ベジータさんは天才だって言ってたし……)」


サイヤ人の王子でエリートであるベジータの実力は、当然悟空は認めている。
そのために、ライはベジータに後を託したのだとそう予想した。


「こんどの試合でたぶんセルゲームは終わる。そいつが負ければ、もうおめえに勝てるヤツはいねえからだ…」
「だ…誰なんだ一体…焦らすなよ……」


ゆっくりと、穏やかとも言える態度で言う悟空に、クリリンは戸惑いながら呟いた。


「だがオラは、さっきおめえと戦ってみてやっぱりそいつならおめえを倒せると思ったんだ」
「なに!?」
「だからオラはすべてを任せて降参した…」


告げる悟空の姿を、ライはじっと見つめる。


「ということは、そいつはきさまはもちろんわたしより強いとでもいうのか?」
「ああ」


即答する悟空に、セルはくっくっくと喉を鳴らす。


「では聞こうか。その存在するはずもない者の名前を…」


促すようにセルが呟くと、全員の視線が悟空に集中する。
誰もが、悟空が発するであろう挑戦者の名前を静かに待っていた。
そして悟空はキッとライたちのいる方向を振り返り、


「おめえの出番だぞ、悟飯!」


そう高らかに宣言した。


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